I~これが私~

風の吹くまま,気の向くまま,ありのままの自分で。

『同居人は化け猫!』第8章-4

2011-11-14 19:42:12 | 小説『同居人は化け猫!』
同居人は化け猫!

第8章 のほほんな日々

4.アキアカネと一緒に ―冬夜―

過ぎていく日々が嫌だなぁと思ったのは、久しぶりだった。
明日の朝には、別荘に帰らなくてはいけない。
冬夜はすっかり赤くなった空を見上げた。
鈴蘭も隣にやってきて、小さく呟いた。
「帰りたくない。」
「…鈴蘭。」
言うと思ったけどさ。
そりゃあ俺だって帰りたくないけど…。
「仕方ねぇじゃん。」
「…うん。」
鈴蘭は泣くのをこらえるみたいに大きく息を吸って、言葉も一緒にはき出した。
「ここには、柚葉とか、すばるは…よくわかんないけど、町の人達、みんな私が化け猫だと知っても、普通にしてくれるから、みんな、優しいから…」
そこまで言って、鈴蘭はしゃがみ込んだ。
ちょ、俺はどうすればいいわけ?
悩んだ結果、冬夜は鈴蘭の頭をなでる。
鈴蘭が少し身じろぎしたけど、冬夜はなで続けた。
「…仕方ないじゃない、鈴蘭。」
不意に後ろから柚葉の声がした。
鈴蘭が涙に濡れた青い瞳で振り返る。
「でも、嫌だ…!」
うめくように言う鈴蘭に、柚葉は困ったように言った。
「じゃ、アキアカネになったら?」
「…は?」
その時、偶然かよくわからないが、鈴蘭の方にアキアカネがとまる。
鈴蘭はそれを珍しそうに見た。
「これから秋になって、アキアカネは山の麓に行くわ。来年の秋は、また戻ってくる。」
「「てことは!」」
冬夜も嬉しくなって、鈴蘭と2人で顔を見合わせる。
「来年、また来なさい。すばるも私も、町の人みーんなと待ってるわ。」
柚葉が優しく、微笑んだ。

明日、冬夜と鈴蘭はアキアカネと一緒に山を下って家に帰る。
そして、来年。
また山に――この家に、戻ってくるんだ。



written by ふーちん


最新の画像もっと見る