とみしゅう日記

桜庭、ファイトだ!

脳にダメージ…桜庭 準決勝辞退も (スポーツニッポン) - goo ニュース

総合格闘技、という言葉が世に普及してから、ずいぶんと経ったような気がする。
なにせ、ここ2、3年の大晦日は、キー局で総合格闘技の大会が競合して放送されるような状況になっている。
実際に視聴率も良いようだから、それなりの経済性は見込まれているということだろう。

かつてプロ野球では、対ジャイアンツという軸が存在していた、らしい。
圧倒的な強さと人気を誇るジャイアンツに、各チームが戦いを挑む、という図式だ。
それがうまく機能していた時代も、きっとあったのだろう。

現在では、プロ野球中継の視聴率が不調だと聞く。
本当のプロ野球ファンは球場に足を運ぶだろう。
それままならないファンなら、CM が入らず、試合終了まで放送してくれる CS の専用チャンネルを視聴するのではないだろうか。
そのあたりの事情がどれほど斟酌されているのかはわからないが、ともあれマスコミはこぞって「野球人気の凋落」を印象付けようとする。

総合格闘技は、これに反比例するように、ここ数年人気を高めてきた。
K-1 は厳密に言えば立ち技であって「総合」格闘技とは呼べないが、HERO'S もあることだし、ここでは総合格闘技のカテゴリーに含めておく。
ともあれ、K-1、PRIDE という二大イベントは、もはや市民権を得たといってもいい人気だ。

ところが、PRIDE との蜜月を続けてきたフジテレビが、PRIDE との関係を絶ってしまった。
一部週刊誌が報じた「PRIDE と裏社会との繋がり」を問題視したため、ということらしい。
もちろん PRIDE 側は否定したわけだが、結局フジテレビは、PRIDE およびその関連イベント (PRIDE 武士道、ハッスル) のテレビ中継を今後行なわないことに決めてしまった。
従来の映像コンテンツも、販売を中止したようだ。

単純に考えると、PRIDE の収益は相当落ち込むことになるはずだ。
大会規模の縮小や、出場選手の減少は、十分に考えられる。
最新の試合を見る限り、選手への影響は少ないようにも見られるが、「会場内の演出がチープになった」というファンの嘆きを、ネット上で簡単に拾うことができた。

僕は、格闘技ファンと自称できるほどの熱心さは持っていない。
それでも、ビデオやDVD、地上波放送などを通じて、いくつかの重要な試合は見てきたつもりでいる。

UWF という団体が存在したころ。
高田延彦がスーパーベイダーと戦った試合があった。
会場は、神宮球場だったと思う。
スーパーベイダーの強烈な技を食らって、何度もダウンする高田。
それでも得意のキックでスーパーベイダーを苦しめ、最後には腕ひしぎ逆十字固めでギブアップを奪って、高田が勝った。
まだVHSデッキが健在だったころの話。

桜庭和志がホイス・グレイシーを破った試合は、DVD で見た。
グレイシー側からの無茶な要望 (1 ラウンド 15 分で、ラウンド無制限) を桜庭が飲んだ。
あのとき会場にいた全員が桜庭の勝利を願っていたのではないか、と思わせるほどの興奮が、ブラウン管を通じて伝わってきた。

あの長丁場を乗り切るにあたって、なんといってもスタミナが重要な要素となる。
桜庭は、ここぞ! というとき以外は、「流して」戦っていた。
もちろん、相手はグレイシーである。
完全に「流す」ことなどできはしないのだけれど、それでも飄々としているように見えるのだ。

桜庭がヒザ十字を極めたラウンドがあった。
ほとんど決まっていたように見えたのだけれど、残念ながらホイスに逃げられてしまう。
しかし、実はこのとき、ホイスの脚に相当なダメージを与えていたらしい。

当時のグレイシーの戦い方というのは、強引にでも相手を寝技に引き込む、というスタイルだった。
いわゆる「猪木・アリ状態」である。
自ら寝転んで、「自分の上に組み付いて来い」と誘うわけだ。

通常、グラウンドの攻防では、上になったほうが有利とされている。
しかし、たとえ下になったとしても、自分たちの技で有利に展開することができる。
グレイシーの男たちには、そういう確固たる自信があったのだろう。

もちろん、そんな挑発にやすやすと乗る桜庭ではない。
周囲をぐるぐる回りつつ、ときおり鋭いローキックをホイスの太ももに浴びせていた。
この攻撃も、膝十字で重いダメージを負ったホイスの脚に、さらなるダメージを与えたのだ。

幕切れは、突然訪れた。

セコンドによるタオル投入。
桜庭の完全勝利が確定したのだ。

あのときの興奮、熱狂は決して忘れない。
間違いなく総合格闘技の歴史に残るであろう名勝負を、
たとえ DVD であってもほぼ同時代で見ることができた喜びは。

それから何年もの時が過ぎた。

格闘家のキャリアとして、晩年を迎えようとしている桜庭は、
PRIDE から HERO'S への移籍を果たした。
衰えたとはいえ、人気の面ではいまだ一流の格闘家が、
二強と呼ばれる一方で、最後の一花を咲かそうとしている。
そこに至った理由は、おそらく本人しか判らないことだろう。
お金、プライド、人間関係、etc.

ともあれ、桜庭が日本の、いや世界の総合格闘技に果たした貢献は大きい。
その選手に、思うような晩年を過ごさせてあげたいと願うファンは、
決して少なくはないはずだ。

桜庭の再デビュー戦ともいえる試合が、最近行なわれた。
4点ポジション (相手の選手が、両手・両膝をマットに付けている状態) での
膝蹴りを認めないなど、グラップラー (組み技を得意とする選手) である
桜庭にとっては、比較的有利とされる HERO'S ルール。
極端に言ってしまえば、どうやって「桜庭が勝つのか」、そこが注目の的だったと言えるだろう。

結果、桜庭は勝った。
しかし、試合終了直後、桜庭は病院に運ばれ、精密検査を受けた。
翌日の記者会見で、谷川プロデューサーは、レフェリングに問題があったことを認めた。
この件で、前田日明スーパーバイザーが激怒した、とマスコミは報じている。

この試合を見ていないので、詳しいことは言えない。
ネットでの報道を見ると、桜庭は相手のパンチを受けて、ほぼ意識を失いかけたらしい。
なかば本能で、頭を抱え、うずくまる桜庭。
そこに、相手からの攻撃が容赦なく続く。

桜庭が倒れかけた時点で試合を止めるべきだった。
前田日明は、そう言っている。
選手の安全を第一に考えるべきだ、と。

しかし、レフェリーは試合を続行させた。
セコンドも、タオルを投入せず、成り行きを見守った。

奇跡の逆転劇、そう呼ぶこともできる。
スミルノヴァスという、リトアニアの選手の詰めが甘かったのかもしれない。
ともあれ、桜庭は何とか起き上がり (意識はほとんどなかったらしい)、6分41秒、腕ひしぎ逆十字固めでギブアップを奪った。

精密検査が行なわれているはずだが、その結果はまだ報道されていない。
脳へのダメージが心配だと、前田日明は言っている。
次の試合を辞退させるかもしれない、とも。

これが漫画やアニメなら、最高の展開だろう。
起死回生の逆転勝利。
陳腐といわれようとも、定番の持つ力は強い。

だが、ことは総合格闘技だ。
生身の人間同士が、定められたルールの中でとはいえ、全力で殴り、蹴り、間接を極めようとするのである。
怪我なく済むほうが珍しい。

レフェリーを始め、大会運営者がまず何よりも考えなくてはならないのが、選手の安全である。
選手としての将来を奪うどころか、命すら危ぶまれるような怪我をさせるようなことが、絶対にあってはならない。
だから、ほぼすべての総合格闘技イベントでは、「レフェリーストップ」が行なわれているはずだ。
選手の意識が飛んでしまったら、ギブアップの意思表示などできないのだ。
レフェリーが状況を的確に判断し、惨事が起こる「手前」で試合を止める必要がある。

桜庭は勝った。
しかし、その代償として致命的なダメージを負った可能性が高い。
そうやって「選手をないがしろにする」大会に、
出場したいと思う選手がいるだろうか。

確かに、彼らは命がけで戦っている。
その熱い思いが、多くのファンを魅了しているのだ。
だからこそ、なおさら主催者には選手の命を大切に扱ってほしい。
ドライな言い方をしてしまえば、選手という「商品」を大切に扱えば、その分自分たちの「儲け」も増えるはずだ。

いい試合というのは、選手だけで作るものではない。
もちろん、主催者の思惑だけで作れるものでもない。
公開リンチではなく、正々堂々と殴りあい、蹴りあい、極めあう試合を見せてほしい。
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