その日、息子と娘を連れた母親が4匹の子猫を1匹、家族に迎えるためにやってきた。
3匹の子猫はくんずほぐれつ、毛糸だまが転がるように愛らしかった。
残りの1匹は地味な見掛けとどこか人慣れせず遠くから仲間さえ眺めているような子だった。
母親は華やかで明るく待望の女の子だという末娘もわがままさは見てとれたけど無邪気な可愛さで満ちていた。
対して真ん中息子の次男はおとなしい。
暗いというのではないけれど諦めとともに黙って微笑んでいるような感じだ。
母と妹が子猫選びに大騒ぎしているなか見向きもされなかった地味な子猫が息子の傍らにやってきた。
息子は黙って子猫を撫でていた。
幸せそうに。
やがてその姿に母親が気づいた。
「その子が欲しいの?」
「うん、欲しい」
そんな猫いやだと喚く娘に耳を貸さず母親は息子の傍らにいる子猫をむかえることに決めた。
「息子がこんなにハッキリと言うのを聞いたのは初めてです。いつも我慢していたのでしょう。ここで息子の言葉を無視したら私は母親失格です」
あの瞬間の息子の幸せそうな顔の輝きが忘れられない。
末娘はドアの前でもまだ怒っていた。
わがまま娘ではあるがこの母親ならわがままもこの子の魅力となって幸福に生きて行かれるはずだ。
古い話ではあるが私の心の宝箱に眠る思い出だ。