時々、店のホステスと銀座に買い物に行ったよ。
客に贈るネクタイを買う店は決まってたからね。
そのホステスと一緒にに行くこともあったんだよ。
そんなとき必ず「ちょっと待ってね」と言って子ども靴を買うんだ。
横止めの黒い革靴さ。
最初は気にもとめなかった。
でもさ、3回目位で気がついたんだよ。
私には子供がいないし、もしかしたら当て付けで靴を買ってるのかも?ってさ。
サイズが大きくなるから子供が育ってるのがわかるじゃないか。
勝ち誇ったような顔してるように見えたよ。
黙ってたけど腹のなかは私も悔しかったよ。子供が欲しいってんじゃないけど当て付けられるのは業腹さ。
ある時、理由は覚えてないんだけどそのホステスの家に行ったんだよ。
子供はこたつに入って小さな声で挨拶した。
しばらくしたら暑くなったんだろうね。
昔の炬燵は炭火だからさ。
もぞもぞしだして炬燵から出てきた。
足がね、動かないっていうか育ってないっていうか。
両手で体を移動させてるんだよ。
何気ない顔でやり過ごしたけどあの靴ははけやしない。
「ごめんなさい、本当にごめんなさい。あんたに子供がいないから私の方が幸せなんだと当て付けたかつたの。
でも子供がいないあんたの自由さも羨ましくて。
あの子の未来を考えるとどうしていいかわかんなくて辛くて」
泣かれたよ。当て付けてたのは確かだったんだけど恨めないさ。
あの頃のホステスはみんな重荷を背負ってた。
小児マヒだって言ってた。
もう靴も買わないだろうね。
今もあの子供靴は老舗の定番商品だ。