まだ戦後10年だよ。
どこでどう知って決心したんだか夫に死なれて男の子二人いる東北のあか抜けない女がさ、畑を売り払って銀座のホステスになりたいって上京してきたんだよ。
美人かって?いや美人とは程遠いヤボったいおばさんだったね。
銀座のどの店に面接に行ってもことわられるんだよ。
なのにママが雇い入れちゃった。
「なんかね、可哀想になっちゃってね。やる気はあるしさ」
うちの店は一流じゃあないけど二流でもないんだよ。
ホステスはみんな怒っちゃってね。
私はしなかったけどみんな、バカにして苛めたさ。
お客も一緒になってばかにしたよ。
あの頃、ヒッチコックの映画が人気だったけどそんな会話にもついてこられなくってね。
ただ、ものすごく素直でなんでも感心してくれて吸収しようと純粋だった。
あの純心さがいつの間にか仕事で気を張ってるお客たちの心を掴んだんだよね。
仕草の美しさで名を馳せている元宝ジェンヌのママがいてさ、彼女真似をしだしたんだよ。
さすがに私も笑ったね。
不似合いでみっともなかった。
けどさ、10年も真似してるうちに身に付けたんだよ。
バカはさ、強いよ。
無謀な努力をまっすぐにするんだ。
逞しいよ。
私はなまじ利口だからさ、結果を予測して逃げる。
プライドがあるからね。
美人はさ、男に店を持たせてもらったりするけど所詮は男の店さ。
彼女は銀座でオーナーママになったしね。