英、対シリア軍事介入断念=政府動議、議会で否決
時事通信 8月30日(金)6時58分配信
【ロンドン時事】英下院は29日夜、対シリア軍事行動に関する政府提出の動議への採決を行い、賛成272、反対285で否決した。キャメロン首相は採決後、「英国民の意見を反映する議会が軍事行動を望まないことがはっきりした。政府はそれに従って行動する」と述べ、シリアでの化学兵器使用を受けた軍事介入を断念する意向を表明した。
動議は、シリアのアサド政権による化学兵器使用を非難し、英軍のシリアに対する軍事行動の可能性を認める内容。
英国がシリア軍事介入から手を引くことは、協調姿勢を取ってきた米国やフランスにとっても大きな打撃となる。2015年に総選挙を控える保守党党首のキャメロン首相にとって重大な政治的敗北であり、指導力に疑問符が付けられるのは確実。
BBC放送によると、ハモンド国防相も英国が軍事介入に参加しないことを認めたが、英国抜きでも米仏は介入を中止しないとの見方を示した。
首相はシリアで化学兵器使用疑惑が明らかになった21日以降、「さらなる化学兵器使用を抑止する」ことを目的とした軍事介入に向け、積極姿勢を取ってきた。
当初、動議は1回の採決で直ちに軍事行動に移れる内容だった。しかし、野党労働党の要求を受け、軍事行動のためにはシリアで活動中の国連化学兵器調査団の結果を待って再度の採決を必要とするよう修正するなど大きく譲歩。だが、労働党は結局、アサド政権による化学兵器使用の明確な証拠を求めて反対に回った。また、与党保守党内にも介入への慎重論が相次いだ。
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英国は直ちに軍事攻撃を開始したかったが、議会の反対で軍事介入を断念した。国連の化学兵器調査団の調査結果が出る前に“シリア政府が化学兵器を使用した”という理由で攻撃を急いだが、明確な証拠が示されないていない以上、英国議会がシリア攻撃に反対するのは当然のことである。
シリアにおける化学兵器の使用は、米英とつながった反政府勢力や、米国と裏でつながっているアルカイダが関与した疑いが払拭されていない。
米国の裏工作を仄めかした記事
反体制派が政府軍ヘリを地対空ミサイルで撃墜
どこの国が反体制派にミサイルを供与したのか?
2012年11月29日(木曜日)読売新聞朝刊9面
米メディアは、武装組織「自由シリア軍」がトルコ経由で地対空ミサイルを入手したと報道した。ポイントは自由シリア軍がどこの国で製造した地対空ミサイルを使用したかということである。カダヒイ政権崩壊後、政府軍の兵器が反カダヒイ側に流出した。「自由シリア軍」はカダヒイ政権崩壊後、入手した政府軍の兵器を使用したのか、トルコ又はトルコと親しい国が渡したのは、どこから入手した兵器なのだろうか。
カダヒイ政権側から流出した兵器を収集しシリアの反対政府側へ引き渡す仲介工作を行っていたのは、駐リビアの米大使館等に勤務していたCIA職員であった。駐リビア米国大使はそのため殺害された。また、殺害された駐リビア大使はトリポリを拠点とするアルカイダと接触し、シリア政府打倒の工作を行っていたとの情報がある。
駐リビア大使殺害の経緯を米国議会で証言するよう議会から求められていたペトレイアス前CIA長官は、議会証言を避けるため、突如、親しい女性との不倫問題を口実に辞職した。あたかもクリントン元大統領が中国からカネを提供されていたことが発覚し、議会で共和党の追求にあう前に突如、ホワイトハウス内で女性職員と不倫をしていたと詫びることにより議会や世論の追及を免れたとのと同じ構図が見てとれる。米国は、反米勢力を打倒するためには躊躇せず裏工作をする。
日本のマスコミは独自の調査活動をせず、外部から流れてくる情報を垂れ流すので、真相は闇に包まれる。このニュースは米国が裏で動いていたか否かという観点で留意しておく記事である。
シリアは化学兵器を使ったのか
米英はシリア政府が化学兵器を使用したと主張しているが、シリア入りした国連化学兵器調査団は・・・・アルカイダとつながっている・・・・“反政府勢力”が支配する地域から狙撃兵に銃撃され、現場を離れることを強いられた。米英は国連の調査団が証拠を評価し、報告書が作成される前に、化学兵器調査団をシリアから撤退させたかったのである。米国政府は国連事務総長に調査団の撤退を要求したが、国連事務総長は米英の要求を拒絶した。
今のところ、米英両政府は、シリアが化学兵器を使用したという決定的証拠を何一つ明らかにしていない。逆に、シリア政府は英国議会に調査団を派遣し化学兵器使用について調査するようにとの書簡を送ったと報じられている(8月30日、「みのもんた朝ズバ」で)。
また、化学兵器という人道に反する行為に対し、本来ならばそれを糾弾するはずの・・・・・米国政府から資金の提供を受けている・・・・・・欧米の“人権”団体のふりをしているNGOが、シリア政府を非難する動きを見せていないのは、注目すべきことである。これらのこれら団体からみてもシリア政府が化学兵器を使用した決定的証拠がないからであろう。
米英はなぜ、彼らにとって“好ましくない”シリア政権を攻撃するのか
8月28日、反体制派の連合体「シリア国民連合」と、これを支持する各国グループ「シリアの友人」主要11カ国(米、英、仏、独、伊、トルコ、サウジアラビア、エジプト、ヨルダン、UAE、カタール)の代表がトルコのイスタンブールで会合を開き、この場で欧米諸国が軍事活動を開始する可能性を話し合った。
アラブ連盟加盟国は、欧米流の民主主義や自由とは相容れない王政の“独裁国家”であり、エジプトの軍事政権も“独裁政権”である。欧米は民主主義とか自由を擁護するために戦うのではない。“独裁政権”と手を組んでシリアを攻撃するのは、シリアの政権が欧米にとって好ましくないからである。
シリアの政権が米英にとって好ましくない理由は何なのか。シリアは冷戦時代から欧米諸国と敵対する傾向があり、米国が支援するイスラエル対しテロ攻撃を行っているレバノンのヒズボラを支援してきた。また欧米諸国と敵対するイランとも友好関係にある。さらに、2011年からアサド政権の退陣を求める反体制派との内戦で、2013年8月までに100万人以上の難民を出すなど、シリアはこの地域の不安定要因の一つとなっているからである。
欧米にとって“好ましくない”政権に打撃を与え、アサドを懲罰するために攻撃するのである。
また、シリア国内には欧米の支援を受けた反政府勢力、周辺国から流入した過激派テロリストとシリア政権が三つ巴の戦いを行なっている。欧米がシリア政権にダメージを与えれば、シリア国内は一層混乱に陥りイスラム過激派の活動に恰好の場となる。シリアに対する攻撃は、イスラム教徒を過激化する。
ロシアには多数のイスラム教徒がおり、イスラム国家と国境を接している。イスラム教徒の住む中国・ウイグル地区は騒乱が絶えない。中東の紛争が中露へ波及すれば、米国の覇権に挑戦するロシアと中国の力を削ぐことも可能となる。
シリアでケリをつけたあとの攻撃対象は、米国の同盟国イスラエルと敵対するイランである。イラクがそうであったように、欧米にとって開戦の理由はどうでもいいのだ。
日本にとって米国は頼るべき国ではない
米国は第二次世界大戦後も戦後世界各地で戦争を戦ったが、大規模な地上軍を派遣したのは朝鮮動乱、ベトナム戦争、アフガニスタン及びイラク攻撃である。これらの戦争相手国は、どれも米国にとっては弱小国であり、核・ミサイルも持っていない。
米国は、自国にとって“好ましくない国家”であるシリアを手前勝手な自国の利益のため“弱小国”シリアを叩こうとしている。第二次世界大戦の末期、日本が継戦能力を喪失したときに原爆を投下したが、相手国に反撃能力が無いから攻撃するという体質は相変わらず変っていない。しかも人命を犠牲にしたくないから空爆、ミサイル攻撃のみで地上部隊を投入しない。
ホークランド諸島を巡って英国とアルゼンチンが戦ったとき、米国が同盟国英国のために行なったことは、情報提供と英国兵の休養のための米国領土の使用など兵站に限られた。武力をもって英国を支援したわけではない。
このような米国の姿勢から分ることは、将来、日中が尖閣諸島を巡って武力衝突に至った場合、米国が日本側にたって中国と戦うことはないということである。中国は強大な核・ミサイル戦力を持っているだけでなく、人海戦術が得意な国である。しかも中国の政治的、経済的影響力及び軍事力はシリアの比ではない。
米国が同盟国日本支援のために撮りうる策は、精々リップサービスか情報提供くらいであろう。米国に離党防衛のため多くを期待するのは誤りである。
日本は、米国は頼みにならぬと腹を括らなければならない。
(蛇足)
トルコは欧米主要国とアラブ産油国の繋ぎ役となってシリア政府打倒に加担している。これらの国々にとってトルコが中東の秩序形成に果たす役割は極めて大きい。尖閣諸島の対応に追われる日本の存在感は欧米やアラブ諸国にとって希薄に映るであろう。ということで、オリンピック開催地はトルコのイスタンブールに決まっても不思議ではない。
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