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ロシアが見える保守的州ーアラスカ

2022-11-10 22:26:51 | 旅行

さて、アメリカ最大の面積を誇るアラスカ州。

日本人には広大な大地やオーロラなど観光地としても人気があり、

一定の年齢層以上の方にとっては「飛行機の経由地」としてのイメージも強いでしょう。

 

このアラスカの歴史は前回の記事でご紹介しましたが、

今回は第二次世界大戦後の近現代のアラスカのTIPをご紹介しましょう。

 

話は少し変わるようですが、アメリカの二大政党というものをご存知でしょうか。

そう、共和党と民主党ですね。

2022年現在の大統領であるバイデン大統領は民主党の大統領、

その前に大統領職にあったトランプ大統領は共和党の大統領です。

 

歴代の大統領のうち日本人にも知られている大統領としては、

民主党はオバマ大統領、クリントン大統領、ケネディ大統領、フランクリン・ルーズベルト大統領、

共和党はブッシュ大統領(父子とも)、アイゼンハワー大統領、リンカーン大統領などを輩出しています。

 

この二大政党はそれぞれ支持層が異なっており、一般的に共和党は保守層や中西部など地方の白人層、

民主党はリベラル層や大都市の中産階級以上が基盤となっています。

ではアラスカは?というと、実はアラスカは非常に保守的であり、共和党が強い地域なんです。

ちなみにアメリカでいう「保守的」とはどんなもんなのかというと、

市民に対する政府の介入を出来る限り少なくする「小さな政府」を好み、

社会福祉や生活保護などよりも低い税率と自由、そして自分を守る銃を大切にするといわれています。

また敬虔なキリスト教徒が支持層に多くキリスト教の教えに反することを嫌う傾向にあり、

人工中絶や同性婚に対しては強く反対している人が多いといわれています。

 

このアラスカも保守王国のひとつとして知られ、大統領選挙でも保守党の候補が非常に強い州となっています。

ただし人口が少ないため選挙人は3人しかおらず大統領選挙でもあまり注目されていないのも現実です。

しかしこのアラスカ州が大統領選挙において世界的に大きく注目を集めたことがありました。

それが2008年に行われた第56回アメリカ合衆国大統領選挙です。

ここではアラスカに深くかかわる一人の女性が登場します。

 

 

この時民主党の大統領候補だったのがオバマ氏、副大統領候補だったのが2022年現在の大統領のバイデン氏です。

一方共和党の大統領候補だったのが共和党の大物マケイン氏で、副大統領候補がサラ・ペイリン氏でした。

 

このサラ・ペイリン氏はアイダホ州出身ですが生まれてすぐにアラスカ州に移住しており、

父親の影響で趣味は釣りと狩猟というアウトドア派。中学卒業後には共和党に有権者登録しています。

その後スポーツキャスターなどを務めたあと1992年にワシラ市議会議員に選ばれ政治に道に進むことになり、

その後若干32歳の若さでワシラ市長に、そしてその10年後、2006年にはアラスカ州知事に当選することになります。

 

アラスカ州知事になった2年後にはなんとアメリカの副大統領候補にまで上り詰めることになるわけですが、

ペイリン氏が選ばれた理由には大統領候補であるマケイン氏の政策にありました。

ジョン・マケイン氏は共和党の大物政治家である一方、共和党の中では「中道派」と呼ばれており、

同性婚や中絶を一部容認する姿勢であったため共和党の中でも最保守層からの支持を得られないのでは危惧されていました。

そのため熱心なキリスト教徒であり非常に保守的、かつ共和党の強力な支持基盤である全米ライフル協会の会員である

ペイリン氏を副大統領候補にすることで、保守層の支持をつなぎとめようとしたのです。

実際にもしマケイン氏が大統領に当選した場合史上初の女性副大統領となることもあって

共和党のみならず世界中から注目されることとなりました。

 

しかしながら結果は民主党の候補オバマ氏の勝利、マケイン氏の大統領への夢は破れることとなりましたが

この「戦犯」とされてしまったのがこのサラ・ペイリン氏だったのです。

 

「I can see Russia from my house!」

 

直訳すると「私の家からはロシアが見える」、日本では一般的に「アラスカからはロシアが見えるの」と略されます。

これはペイリン氏が大統領選挙活動中に発したフレーズで、たしかにアラスカからはロシアを臨むことが可能ではあります。

しかしどういう場面で使われたかというとこれは実はABCニュースでの一コマ。

2008年に起こった南オセチア紛争などで揉めるロシア情勢に関する質問を受けた時のことでした。

当然ながら記者はペイリン氏に対してロシア情勢に対する識見を問うた質問だったのですが、

「アラスカからはロシアが見えるのよ」というまったく的外れな回答をしてしまったのです。

このほかにも様々な討論やインタビューでおぼつかない回答を連発し、ペイリン氏は政治家としての資質に疑問符がついてしまいました。

このフレーズはその代表的なものとして広く知られています。

 

またもうひとつペイリン氏の見識の浅さを象徴するインタビューとして「建国の父」というものがあります。

これはインタビューの中で「尊敬する建国の父は誰ですか?」という質問に

「私は建国の父全員を尊敬しています」と応えたものでした。

ここだけみるとなんだかニュートラルな回答にも見えるのですが、

実はこの「建国の父」という質問はこういった大統領選挙などでは定番だったりするのです。

というのも、この「建国の父」というのはアメリカ合衆国独立宣言や合衆国憲法に署名をした人々を指すのですが、

この建国の父には様々な出身地や職業の人がいました。

その人々がそれぞれ異なる国家観を持っており、彼らの誰を尊敬するかによって

その政治家の国家に対する考え方や政策の方針などを指し示すものなのです。

しかしこの質問に「全員です」と答えてしまうことはまるでペイリン氏に定まったポリシーがないかのように移り、

共和党陣営からも副大統領候補として不適格なのではないかという声があがるほどに。

 

日本でも首相候補が一番大切だと考える政策を「全部です!」と応えられたらえ?とは思ってしまいますよね。

 

こうして結果的に共和党敗退の戦犯扱いされてしまったペイリン氏は2009年にアラスカ州知事を辞任。

2012年の大統領選挙に向けての出馬準備とされていましたが結果的に出馬せず。

その後2022年に連邦議会下院選挙にアラスカ州より立候補するも落選しています。

 

なんだかアラスカに関する記事というかペイリン氏の記事になってしまいましたので、

アラスカの政治がらみの簡単なTIPをご紹介しましょう。

 

 

アラスカ州は前回の記事の通り、石油収入が州の歳入を大部分を占めており、

これに加えて連邦政府からの交付金で州の財政を賄っています。

逆にいえばこの石油と交付金で財政が賄えているともいえ、

消費税も所得税もないという全米で2州しかない税負担の軽い州となっています。

(ただしホテル税や酒税、たばこ税など個別に税金が課せられている項目はあります。)

 

こういった軽い税負担からアラスカ州は事業に優しい税制度を持つ州の一つに数えられており、

ワイオミング州、ネバダ州、サウスダコタ州に次ぐ第4位とされています。

 

もし寒いところが得意で英語が喋れるのであればアラスカで企業するのもいいかもしれませんね。

 

さて、この記事は一旦ここまでとします。

次回の記事ではアラスカとは切っても切り離せない「航空」分野に注目をしてみましょう。