宇宙時間 ソラノトキ

風樹晶・かざきしょう

勝手に趣味ブログ
のんびりしようよ

みらーじゅ 50  最終章

2009-01-17 15:07:07 | 小説 ミラージュ
「チョウカ!?」
 三人が唖然とした顔で見守る中、宙に浮いたまま呪歌(ドラグス)を歌い出した。
 チョウカがグルラディーヌに手を差し伸べる。と、彼女を包んでいた生命樹の根がほどけていく。
 そして、グルラディーヌの手を取ると水の上をすべるように移動し、向こう側の石畳へ着地した。
 レトとグリシーヌに抱きかかえられるように、膝をつく。
 歌が終わり、ほうぅ と息をつくチョウカ。そこへ、生命樹に操られたモノ達が水の中から這い出した来た。
「また、出た」
 グルラディーヌが飛び上がる。
 廊下で襲って来たモノ達だ。
「よし、さがってろ」
 レトが黒蛇に拾ってもらった丸いやつの外側をはがし、その中身を取り出すと生命樹に向けて思いっきり投げつけた。
         
 ど お お ぉ    ・・・・・・     ん

 空間が揺れる。
 這い出してきたモノが水中に転がり落ちる。
 次に、生命樹は水中から根を伸ばしてきた。 
「おし、もういっちょ」

       ど っ ご ぉ ー ん

 生命樹が揺れる。
「やめろっ」
 魔術師が生命樹の傍らに姿を現した。
「私の娘に何をする」
 ゆっくりと水中に倒れ込む、生命樹の幹を抱く。
 ぱらり
 水が波立ち、岩の天井にひびが入る。
 生命樹の幹が水に沈み、変わって根が浮上する。その根に絡まる白いモノ。そして、その根が魔術師までも絡め取っていく。
 レトが手の中に残るモノを天井に向けてたたきつけた。
「おい、逃げるぞ」
 レトが座り込んでいる3人を立たせ、地上に向かう廊下へ促した。
 ばらばらと 天井だった岩壁が崩れてくる。
 4人がその空間から飛び出した時、一気に天井が落ちた。
 後は、ひたすら廊下を走る。
 ありがたい事にグルラディーヌが残した明球が道しるべのかわりとなった。
 そして最後、閉じられた扉を
『風礫矢』
 グルラディーヌの術が叩き壊す。

 ぐわ がらん どっしゃ ぐしゃ 
 建物を飛び出して4人が振り返ると、満月の光の中、崩れた建物の向こうにある沼の水が地下へ吸い込まれていくところだった。
「も、もう 追ってこねえよ     な」
 そう言ったのは、レト。そして、その場にへたり込んだ。
「そうですね。もう、その必要はなくなりましたからね」
 言ったチョウカが座り込み、残りの姉妹も崩れるように座り込んだ。
「もとはといえば、あの樹でしたから。それがなくなれば、肥料も新しい苗床も必要ありませんから」
 チョウカの言葉にグルらディーヌが続ける。
「あの魔術師、これで娘さんと一緒になれたかな」
「そうですね、多分。・・・そう、願うしかありませんね」
 おい、今まで自分がされた事、忘れてねーか。
 突っ込みたいレトではあったが、そこまでする気力も体力もなく、それを見たグリシーヌが一言。
「本人が良いのでしたら、それでよろしいのではありません?」

 その翌日、連れ立って隣村に向かう4人の姿があった。
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みらーじゅ 49

2009-01-17 15:06:41 | 小説 ミラージュ
「ね、ここ、水が増えてますわ」
 言われて辺りを見回すと、確かにじわじわと水かさが増している。さっきまでは、石畳の上までに水は来ていなかったのが、ひたひたと水が迫ってきている。しかも、グルラディーヌ付近の水が波打ち始め、檻が徐々に水面に近づいていっている。
「ちょっと、何これ、やだ」
 逃げ場のないグルラディーヌが檻の隙間から手を伸ばし、上にかぶさっている枝を掴んだ。
水面に近づく速度は遅くなったものの、今度は水面下から新たな根を伸ばしてグルラディーヌを捕まえようとする。
「や・・・・・、やだ、・・・・・    」
 グルラディーヌを恐怖が包み込んだ。
「------」
 鳥の声のような高い音が、空間にこだまする。
 ピィ ・ ・ ・ ・ ン
 グルラディーヌの発した声に竪琴が反応した。
「何ですの、一体?」
 グリシーヌがそう言ったのも無理はない。
 竪琴の音に合わせて、水の動きが静まっていく。そして、・・・・。
 水の中から金の光が浮上した。
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みらーじゅ 48

2009-01-17 15:06:08 | 小説 ミラージュ
「おい、チョウカは見つかったか?」
 レトの問いに、
「ここ、この下にいる」
 グルラディーヌが自分の下に広がる水を指差した。
「生きてるか?」
「わかんない」
「何とかなりそうか?」
「なるんだったら、こんなところにいないわよ」
 確かに・・・・。
 とは言うものの、このままあの魔術師をただ待っているのも面白くない。何とか、方法はないものか。
 グルラディーヌとレトが怪我をしても良いのであれば、多少いや、かなり乱暴ではあるが方法がないわけではない。しかし、言えば、グリシーヌが絶対的に反対するのは、目に見えている。
 せめて、グルラディーヌがあの檻から出られれば、あるいは、あそこまで行く方法があれば・・・・。
「そう言えば、あの魔術師は、どこへ消えたのですかしらね?」
 肥料になる人間を調達するとか言ってたようだが・・・・。
「いまさら、何を言って・・・・」
 そうだ、どこへ?  もしかしたら、どこかから外へ出られるかも。
「おい、お嬢。そっちに何かないか。出口か何か、そっちにいける様な」
「え~ と」
 檻の中から見回すグルラディーヌ。そこで、生命樹の向こうに壁の隙間のようなくぼみを見つけた。
「よく分かんないけど、樹の後ろ側。そこの壁が窪んでる。それから、ここ。水際がすごく近いよ」
 そこだ。たぶん、あの魔術師は、そこから出入りしているのだろう。このままこの石畳をたどって、あそこまで行けないか。
 レトがそう考えていたところ、グリシーヌが何か気づいたようで、レトの服のすそを引っ張った。
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みらーじゅ 47

2009-01-17 15:03:53 | 小説 ミラージュ
 少々乱暴ではあるが、他に方法が考え付かないのだからしょうがない。
 ひゅん と、飛んだ黒蛇は、うまい具合にグルラディーヌの檻の上に落ちた。そこで尻尾を使ってうまく隙間から檻に入り込み、グルラディーヌの顔の上に ぽとん と、着地。
「うまく届いたようですわ」
 グリシーヌは上機嫌だが、レトとしては何時あの魔術師が戻ってくるか気が気ではない。
 そうでなくても、生命樹の枝に今にも咲きそうな蕾がいくつかあるのだ。でも、魔術師が言っていた“気に入った”という言葉の意味は?
「それは、妹姫ほど詳しい訳ではございませんので・・・・でも、多分、苗床にするつもりではないかと」
「苗床って?」
「つまり、種を植え付ける為の素材として“気に入った”のでは・・・」
「冗談じゃねえぞ。・・・・て、そう言えば、お前達って言ったたよな。それ、俺らのもって事か」
「多分、・・・・」
「おい、お嬢。お前さんだけでも逃げた方がいい。しばらくなら、背後は守れるぞ」
「それこそ、冗談ではありませんわ。そんな事したら、妹姫だけではなく兄達にも顔向け出来ませんわ」
 きっぱり言い切るグリシーヌをレトが振り返った。
「お前さん。一体何人兄弟がいるんだ?」
「四人兄妹ですわよ。あの子の他に兄が二人。・・・・あ」
「ん?」
 グリシーヌの反応にレトが前方に目を戻す。
「  妹姫ぇ」
 グリシーヌが口に手を当てて、妹を呼んだ。
「あ、姉姫。大丈夫?」
「それは、こちらの言うことですわ」
 水の上を緊張感のない姉妹の会話が飛び交った。
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