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ギリシャ語における外国の固有名詞の特徴

こないだここでギリシャ語に見える標識の話をしましたね。さて、ギリシャ語での外国の地名をはじめ人名など固有名詞を言う時の特徴について興味深い点があるので書きます。

下記のギリシャ文字が表す音は古代ギリシャ語と現代ギリシャ語では違う。
Β/β:古代は[b]と発音したが、現代は[v]と発音する。
Γ/γ:古代は[g]、現代は[γ](右記以外)または[ʝ](「ε」「ι」「υ」の前で)。「κ」、「γ」、「χ」の前では鼻音[ŋ]を表す(古代も現代も同じ)。
Δ/δ:古代は[d]、現代は[ð]。

現代ギリシャ語ではμπ、γκ、ντと書いて[b][g][d]の音を表す。
語頭では
μπ[b]
γκ[g]
ντ[d]
のように発音する(これらはほぼ外来語のみに現れるらしい)。

語中では
μπ:ギリシャの固有語では[mb](したがってオリンピア「Ολυμπία」は現代ギリシャ語ではオリンビアと発音する)。外来語では原音によって[b][mp]とも発音する(三者は表記上で区別しない)。
γκ:ギリシャの固有語では[ŋg]。外来語では原音によって[g][ŋk]とも発音する(三者は表記上で区別しない)。ただし、外来語で[ŋg]または[ŋk]と発音する場合(ラテン文字の「ng」の転写)、前に「ν」をつけてνγκと書くこともある。
ντ:ギリシャの固有語では[nd]。外来語では原音によって[d][nt]とも発音する(三者は表記上で区別しない)。

しかし、外国の固有名詞(とくに地名)は原音の「b」、「g」、「d」を「β」、「γ」、「δ」(古くからギリシャで認識されているものの場合)で書かれることが多い(現代ギリシャ語での発音も文字通りに[v]、[γ]、[ð]となる)。この場合、末尾の形やアクセントの位置もギリシャ風に変わっていることが多い。
そのため、下に挙げた地名を言う時、現地で[b]で発音し他の言語でも[b]で発音するところをギリシャ語だけ[v]で発音するというおもしろい現象が起こっている。特に「β」に関しては([b]と[v]両方の音素を持っている言語が多いこともあって)多く出てきて顕著だ。

例:
ベルリン Βερολίνο
ブルガリア Βουλγαρία
バグダッド Βαγδάτη
バミューダ Βερμούδες
バイカル湖 Λίμνη Βαϊκάλη
インド Ινδία
リビア Λιβύη
イギリス、イングランド Αγγλία

補足:Αγγλίαに見られるγγは(μβ[ɱv]、νδ[nð]と違って)現代も[ŋγ]ではなく[ŋg]と発音する。ただし、後述の新しく認識されたものに関してはγκかνγκで書かれる。

一応「v」も「β」で表される。
ヴェネツィア Βενετία
ジェノヴァ Γένοβα

比較的新しく認識されたものに関してはμπ、γκ、ντで書かれる。

ベリーズ Μπελίζ
バハマ Μπαχάμες:これに関しては英語ではBahamasだから原音に忠実にすればΜπαχάμαςになるはずだから、Bをμπで当てているも末尾がギリシャ風に変わってる感じがする。
アゼルバイジャン Αζερμπαϊτζάν
バクー Μπακού
バンコク Μπανγκόκ
インディアナ(アメリカの州) Ιντιάνα:インド(Ινδία)と同語源。
シンガポール Σιγκαπούρη:これもギリシャ風に変わってるね。

ナポレオン・ボナパルトはギリシャ語名でΝαπολέων Βοναπάρτης、19世紀に独立したリベリアもΛιβερίαというふうに、19世紀の事柄も「b」を「β」で表されているから、外国語の[b]、[g]、[d]の音をμπ、γκ、ντで表すようになったのは比較的新しいこと(19世紀末か20世紀に入ってから)なのかな。

ブラジルはΒραζιλίαだけどその首都ブラジリアはΜπραζίλια
。「ヴラズィア」と「ブラズィリア」(太字はアクセント)で非常に紛らわしい発音の区別になるけど。(ブラジルが先に生まれてブラジリアが後から生まれた地名)
ボリビアはΒολιβίαだけどその名称の由来になった人物のシモン・ボリバルはΣιμόν Μπολίβαρ。(ギリシャにおいてボリビアが先に知られてシモン・ボリバルは後から知られた)



スペイン語の音韻の特徴として、
BとVは同じ発音で、ともに語頭とm、nの前では[b]、語中・語末では[β]と発音する。
Dは語頭とn、lの前では[d]、語中・語末では[ð]と発音する。
Gは語頭では[g]、語中・語末では[γ]と発音する。
スペイン語圏の地名や人名などをギリシャ語で言う時はどうなるか。

古くからの慣用によるもの
バルセロナ Βαρκελώνη:ただしサッカーチームはΜπαρτσελόνα。しかし、スペイン語(スペイン、中南米)、カタルーニャ語のいずれの発音ともずれている。
コロンビア Κολομβία < Κολόμβο(コロンブス)
やはり「b」も「β」になっているね。

新しく認識されたものに関しては原音に忠実に書かれる。語頭の「v」は[b]と発音するが、つづり優先で「β」で書かれるのが普通。語中でも「b」と「v」は同じ[β]で発音するが、通常つづりが「b」の場合は「μπ」、「v」の場合は「β」で書かれる。
マラガ Μάλαγα
サルバドール・アジェンデ Σαλβαδόρ Αγιέντε
ブエノスアイレス Μπουένος Άιρες
バルパライソ Βαλπαραΐσο
ビルバオ Μπιλμπάο
ビスカヤ(Vizcaya) Μπισκάγια:珍しく「v」だけど「μπ」に転写している。一応他言語ではBiscaye(フランス語)、Biscay(英語)、Bizkaia(バスク語)など「b」で書かれることが多い。

スペイン語で[ð]、[γ]と発音する「d」、「g」もντ、「γκ」、「ντ」と書かれているものもある。
ガラパゴス Γκαλαπάγκος(Γκαλαπάγοςでは?)
ディエゴ・マラドーナ Ντιέγκο Μαραντόνα(Ντιέγο Μαραδόναでは?)
また、スペイン語由来のアメリカの地名は英語の発音から次のように書かれる。
コロラド Κολοράντο
フロリダ Φλόριντα: Φλόριδαと書かれることあり。中南米の地名でもアメリカの影響でΦλόρινταと書かれることもある。



ギリシャ人の父とウルグアイ人の母の間に生まれ、ドイツで生まれ育ったホセ・ロイド・ホレバス(José LIoyd Holebas)というサッカー選手がいる。ギリシャ語表記はΧοσέ Λόιντ Χολέμπας。しかし、ギリシャ国籍を取得する際、 Ιωσήφ Χολέβας / Iosif Cholevas / イオシフ・ホレヴァスという名前で登録したそうだ。

マケドニアはギリシャ国内の歴史的な地方名であることから、ギリシャの人はユーゴスラビアから独立した「マケドニア共和国」の国名に関して良く思っていない。実際、ギリシャ語では両方ともΜακεδονίαと言う。マケドニア語では[d]で発音していて、ΜακεντόνιγιαまたはΜακεντόνιαと書いた方がマケドニア語の発音に近い。なので、マケドニア共和国を指すときはそのように表記してギリシャ国内のΜακεδονίαと区別してはどうかとも思う。



参考サイト
ウィキペディア

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森永 ギリシャヨーグルト パルテノで検索


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