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ラテン文字圏では「b」、キリル文字圏「v」になる単語

興味深い言葉に関する話題を一つ取り上げます。

キリル文字で/b/の音を表す文字は「Бб(ベー)」、/v/の音を表す文字が「Вв(ヴェー)」である。ギリシャ語における外国の固有名詞の特徴でも述べたように、ギリシャ文字の「Ββ(ベータ)」は古代ギリシャ語では[b]と発音し、現代ギリシャ語では[v]と発音する。キリル文字は10世紀にギリシャ文字をもとに作られた。/b/音を表す「Бб」よりも/v/音を表す「Вв」のほうがギリシャ文字の「β」に近い字形をしていることからも、10世紀のギリシャ語ではすでに「β」を[v]で発音していたということが伺える。

興味深いことに、ラテン文字圏で「b」で書かれるところがキリル文字圏では/v/の音を表す「в」で書かれる単語がある(「в」で書かれた場合、[v]で発音する)。これらは傾向として、ロシア語などでは「в」、バルカン半島の特に西部では「б」になることが多い。

オリンピックでは、共通の「オリンピックシンボル」(いわゆる「五輪マーク」)と、開催都市ごとにそれぞれ決められる「オリンピックエンブレム」がある。

「シンボル」は
ギリシャ語(古代)のσύμβολονに由来
英語:symbol
ロシア語:символ
ブルガリア語:символ
マケドニア語:симбол
セルビア語:симбол

「エンブレム」は
ギリシャ語のἔμβλημαに由来
英語:emblem
ロシア語:эмблема

「シンボル」という語はキリル文字の伝播とほぼ同時期に伝えられ、「エンブレム」は後からおそらくラテン文字圏を経由して伝えられたのではないかと考えられる。そのほか、比較的新しい、ギリシャ語をもとに人工的に作られた語(学術用語に多い)は古代ギリシャ語の発音に基づいて「б」になっていることが多い。

「ビザンティオン(ビザンティウム)」
イスタンブールの昔の名称。これに関してはラテン文字圏でB/b/、キリル文字圏ではВ(V)/v/とほぼ分かれている。
ギリシャ語:Βυζάντιον
英語:Byzantium
ロシア語:Византий
マケドニア語:Византион
モンゴル語:Византи
セルビア語とクロアチア語はよく似ていて方言程度の差しかない。セルビア語はキリル文字(ラテン文字も併用)、クロアチア語はラテン文字を使用するが、セルビア語ではВизантион(ラテン文字:Vizantion)、クロアチア語ではBizantionという。また、中央アジアの言語はアラビア文字、キリル文字、ラテン文字と、使用文字がコロコロ変わった歴史があり、ウズベク語:Vizantiyaのように「V」で書かれる言語がある。

「ケルビム」
聖書における智天使。
英語:Cherubim
イタリア語:Cherubino
ロシア語:Херувимы
クロアチア語:Kerubin
セルビア語:Херувими
ルーマニア語:Heruvim
これもクロアチア語では「b」、セルビア語では「v」になっている。ルーマニア語では今はラテン文字を用いるが、かつてはキリル文字を用いていたため、その名残が見られる。この「ケルビム」の名は人名にも用いられ、『フィガロの結婚』の登場人物で『恋とはどんなものかしら』を歌う役として知られる「Cherubino(ケルビーノ)」もこれに由来する。

「フォボス」
ギリシャ神話における恐怖の神。
ギリシャ語:Φόβος
英語:Phobos
ロシア語:Фобос

キリスト教はギリシャ経由で伝播し、キリル文字圏にはキリル文字とほぼ同時代に伝わったと考えられる。そのため、聖書の登場人物名はギリシャ語の「β」の部分が「в」/v/になっている。一方、ギリシャ神話は後から学術研究として輸入された概念と考えられる。そのため、古代ギリシャ語に基づいて「β」が「б」と転写されたのだろう。

「セバストポリ(セヴァストポリ)」
ニュースによく登場したクリミア半島の中心都市。古代、ギリシャ人が入植して建てられた都市で、セバストポリの名もギリシャ語に由来する。ウクライナ語とロシア語でСевастополь。古代ギリシャ時代からの歴史ある町で、西欧でも古くから知られているようで、ラテン文字圏のいくつかの言語では「b」で書かれる。英語でも今はSevastopolだが、昔はSebastopolと書いていたらしい。

キリル文字を使用する言語はスラヴ系に多い。スラヴ系であっても西部のカトリック教徒が多い地域の言語はラテン文字を用いる。スラヴ系でもラテン文字を用いる言語では、逆バージョンがあって、イタリアのヴェネツィア(Venezia)のことをチェコ語とスロヴァキア語とスロヴェニア語それぞれBenátky、Benátky、Benétkeというふうに、現地語で「V」のところが「B」になっている。

参考サイト:ウィキペディア、ウィクショナリー


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