"The Gargoyle" Andrew Davidson
話は、ドラッグ依存症の男性(主人公)が運転中に大事故に遭い、
重度の全身やけどを負ってしまうところから始まる。
森からたくさんの矢が飛んでくる幻覚を見て、
ハンドル操作を誤ってしまったのだ。
きれいな容姿を武器にAV男優を生業としていた男性は、
見るも無残な姿になってしまう。
全身焼けただれた中、
生まれたときから胸に刻まれている
矢が刺さってできたような跡はそのままだった。
退院をしたら自殺をしようと綿密に計画を立て始めた男性の前に、
彫刻家マリアーネが表れる。
初対面の彼女から、謎の一言
"You've been burned. Again."
「火傷を負ったのね。また。」
マリアーネは総合失調症の治療で
同じ病院の精神科にお世話になっている。
彼女は不思議なことを言い続ける。
"We've outlived a seven-year-old. We've outlived her a hundredfold."
「私たち、7歳の子よりもずっと長生きしたわ。100倍も長生きしたわ」
"~, because I have my penance to complete."
「・・・。果たさなくちゃいけない償いがあるの」
たびたび病棟を訪れては、
マリアーネは男性に物語を語って聞かせる。
バイキングが登場したり、舞台が日本だったり、
時代も国もばらばらなのだけれど、
どれも悲しい愛の話だった。
そして、それらの挿入話とともに話されるのが、
700年前の男性とマリアーネの出会いと別れの物語。
中世の修道女マリアーネと、火傷を負った兵士の出会いと別れの物語。
兵士は全身火傷の上、弓矢に撃たれたのだけれど、
胸に忍ばせていたダンテの本、"Inferno"(地獄)に守られた。
胸には、矢の傷が残った。
マリアーネの話は、総合失調症による架空の話なのか。
それとも、輪廻転生した彼女の数々の人生の話なのか。
マリアーネの語る愛の話はどれも美しい。
彼女の存在のおかげで、男性が火傷の治療に積極的になり、
退院してマリアーネの豪邸で同棲を始める現実の話のほうも、
男性の語り口調が、どこか面白おかしくて、読んでいて楽しかった。
容姿端麗だったころは、人を愛することを知らず、
友人もいなかった男性が
その容姿を失ってから、信頼する人たちと出会い
友情をはぐくんでいく変化が楽しかった。
火傷の治療の詳しい過程も興味深かった。
ドラッグを絶つ過程で頭の中で体験した地獄への旅も面白かった。
一つの人生の中で、与えきれなかった愛を、
輪廻転生してたどり着いたどの人生でも与え続け、
それを「償い」とマリアーネは呼んでいる。
そしてその愛を受け取った男性は、
今度は自分が愛を与える番だと自覚する。
"You are mine, I am yours; you may be sure of this. You've been locked inside my heart, the key has been thrown away; within it, you must always stay."
「あなたは私のもの、私はあなたのもの。このことはあなたも確信しているでしょう。私の心の中にあなたを閉じ込めて、鍵は捨ててしまった。私の心の中に、あなたはいつまでもいる。」
"the end of her penance was the beginning of mine."
「彼女の償いのおしまいは、俺のつぐないの始まりだ」
「愛情とは、関係を絶たぬことである。」
と河合隼雄さんが言っている。
この本には、700年にも渡って、関係を絶たない二人がいた。
700年も愛情と償いでつながっている二人がいた。
7月4日 おかん
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます