万葉集が作られた時代、青を示す言葉はなかった。
ではどう言い示すか。
暗い緑、薄い黒と呼んでいたそうだ。
端的に表す言葉が発明されていなかったから、言葉の組み合わせで示していた。
一言で言い表さない、準重要な色。
人々が日常と世代交代を繰り返し、その度に語り伝えたいことが増えていく過程で、青という言葉が発明された。
しかしその、音にして二字の表現を知っていると、青について考えるときに良い視点を持つことができそうではある。
青は空、海。
代表的な自然の色。
見飽きることのない、爽やかな色。
静的なイメージから、穏やかな死も連想された。
その無力な虚しさと叫ぶような切なさも含む色。
また、私が青について具体的に語るとき、それは晴れた海を語ることになる。
どこまでも空間的に広がっていき、空を同じ青色に染め上げる。
沖で一滴の波紋、かすかな揺らぎを生む。
それを陸まで真摯に届ける。
晴れた海は声高に叫ぶことなく、淡々と仕事を積み上げていく。
自らの中の死にいく魚にかまうでもなく、卵から生まれる稚魚に歓喜するでもなく、ただ包み込む。
海にとっては、生き物の始まりや終わりも、何億回と繰り返される日常の小さなひとつなのだ。
そんな晴れた日の海が、私の青だ。