身に覚えのない罪により、幽閉先で家譜編纂と十年後の切腹を命じられている武士の崇高な凛とした生き方が心に沁みた直木賞受賞作です。数々の理不尽な事がまかり通る村で著者の淡々と進めて行くものがたりが、この上なく格調高く、それ故に悲しみがより深く心の琴線を振るわせた一冊でした。四季折々の自然の美しい文章も、弱者の苦しみや諦めが一層強調され切なかった。最終章どの人物も尊く厳かであり、静かな感動が内に広がり涙が止まらなかった。歴史時代小説はあまり好きではないが、こうしたメンタリティーに富んだものはいいなあと改めて感じる。