新聞の紹介で知った。三島由紀夫は繊細な感情の移ろいや様相をを深く細かく美しい言葉で描き”春の海”や”金閣寺”が特に好きです。この”命売ります”はまるで奥田英朗の精神科医シリーズと錯覚しそうだった。自殺に失敗した主人公が居直って命を売りに出すがいつも生き延びてしまい、最後は命を狙われ逃げ回る…という主人公の”生”への思いの変化が人間の本能と思い知らされた。生きたいと言う思いがあるから、いろいろ煩う事があると言う。その通りだと思う。ハードボイルドっぽいが彼らしい繊細な表現は随所で窺われ、欅林の情景は「あの美しい欅の梢が、夕空の仄青い色を精妙無類に、丁度夕空へ投げかけた投網のようにからめ取っているのは、そもそも何故だろう。自然は何でこんなに無用に美しく、人間は何でこんなに無用に煩わしいのだろう」と言う所などはああ三島由紀夫だったと思い起こさせてくれた。