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アザラシの海洋適応に伴うタンパク質進化のしくみを解明

2021-08-28 18:46:02 | 理工農系

岡山大学、富山県立大学、立命館大学、長浜バイオ大学の共同研究成果です! 

 

2021(令和3)年 8月 27日
国立大学法人岡山大学
http://www.okayama-u.ac.jp/
 


<発表のポイント>

  • 哺乳類の潜水能力は、筋肉中で酸素を貯蔵する働きを持つミオグロビン(Mb)というタンパク質の量に依存し、潜水哺乳類の肉が陸生動物の肉よりも色が濃いのは、筋肉中のMb濃度が高いことによる。
  • 潜水哺乳類であるクジラやアザラシは、約三千万〜五千万年前に陸上に生息していた四つ足動物から進化した。
  • 現存生物のゲノム情報解析と遺伝子工学を駆使することによって、絶滅した祖先アザラシのMbを復元することに成功した。
  • アザラシMbの進化プロセスを以前解明したクジラMbの進化と比較することで、潜水哺乳類Mbに共通する進化戦略とアザラシ独自の戦略が明らかになった。
  • 潜水哺乳類Mbが細胞中に高濃度で存在出来るしくみを応用することで、高品質のバイオ医薬品の低コスト生産が期待出来る。



◆概 要
 富山県立大学工学部医薬品工学科 磯貝泰弘教授、立命館大学生命科学部応用化学科 今村比呂志助教、岡山大学異分野基礎科学研究所 墨智成准教授、長浜バイオ大学バイオサイエンス学部 白井剛教授らの研究グループは、複数の祖先アザラシMbを復元して合成することに成功した。合成した祖先および現存アザラシMbの構造と生化学的性質の解析を行い、以前解明したクジラMbの進化と比較することで、潜水哺乳類に共通するMbの進化とアザラシ独自の進化の道筋を明らかにした。

 古生物学における化石研究によると、クジラとアザラシを含む海棲哺乳類(海獣)は、かつて陸上に生息した四つ足動物祖先から数千万年の歳月を経て進化し、海洋で深さ千メートルを超える高い潜水能力を獲得した(図1)。
 

図1.ゲノム解析による鰭脚類の系統関係(動物のイラストは川崎悟司氏提供)


 一方、現存哺乳類に関する生化学的な解析によると、潜水能力の高い海獣の筋肉組織中には、ミオグロビン(Mb)という赤い色素タンパク質が、陸棲動物に比べて数倍から数十倍の高濃度溶け込んでいることが知られている。Mbとその類縁タンパク質(グロビン)は、微生物から昆虫、軟体動物、脊椎動物、植物を含む様々な生物種が発現し、それらの細胞内環境に応じて、分子状酸素(O2)と可逆的な結合解離反応を行う呼吸タンパク質である。
 

図2.アザラシミオグロビン(Mb)の分子進化に伴うアミノ酸置換


 本研究では、現存生物由来グロビンのアミノ酸配列の統計解析と遺伝子工学・生化学・構造生物学実験によって、陸棲動物から進化したアザラシMbの進化の跡を辿り(図2)、クジラMbの進化(Isogai et al., Scientific Reports 8:16883, 2018; 北日本新聞2018年11月16日の記事など)と比較することにより、潜水哺乳類Mbに共通する分子進化とアザラシ独自の進化の仕組みを解明した。具体的には、どちらのMbも進化の過程で細胞内の環境で沈殿し難く変化すると共に、構造安定性が向上し壊れ難くなった。一方、アザラシとクジラでは、この構造安定性を獲得する仕組みが異なっていた(図3)。
 

図3.ゾウアザラシMb(esMb:左から1及び3列目)とマッコウクジラMb(swMb:左から2及び4列目)の分子表面(オレンジ疎水性、空色親水性)の比較.右側4つの構造は左側4つの構造をそれぞれ180度回転させたもの. esMbはswMbに比べ疎水性表面が小さいことが分かる.


 抗体医薬を初めとするバイオ医薬品は、ガンやリュウマチの特効薬として期待されているが、薬効成分であるタンパク質が不安定で溶解度が低く、生産に多大なコストがかかることが社会問題になっている。本研究の成果を応用することで、低価格で供給出来るバイオ医薬品の開発が期待出来る。

 本研究成果は、2021年8月20日に米国科学誌の「 iScience 」オンライン版(https://www.cell.com/iScience)で公開されました。


◆論文情報
 論 文 名:Common and unique strategies of myoglobin evolution for deep sea adaptation of diving mammals
 掲 載 紙: iScience
 著   者:磯貝泰弘(富山県立大学),今村比呂志(立命館大学),中江 摂(長浜バイオ大学),墨 智成(岡山大学),高橋健一(長浜バイオ大学),白井 剛(長浜バイオ大学)
 D  O  I: https://doi.org/10.1016/j.isci.2021.102920


◆参 考
・岡山大学異分野基礎科学研究所(RIIS)
 http://www.riis.okayama-u.ac.jp/

岡山大学異分野基礎科学研究所(RIIS)

岡山大学異分野基礎科学研究所(RIIS)

 


◆本件お問い合わせ先
<研究に関すること>
 磯貝 泰弘(イソガイ ヤスヒロ)
 富山県立大学工学部医薬品工学科 磯貝 泰弘 教授
 〒939-0398 富山県射水市黒河5180
 TEL:0766-56-7500(内線1915)

 今村 比呂志(イマムラ ヒロシ)
 立命館大学生命科学部応用化学科 今村 比呂志 助教
 〒525-8577滋賀県草津市野路東 1-1-1
 TEL:077-561-5021

 墨 智成(スミ トモナリ)
 岡山大学異分野基礎科学研究所 墨 智成 准教授
 〒700-8530 岡山市北区津島中3-1-1
 TEL: 086-251-7837
 http://www.cc.okayama-u.ac.jp/~sumi/index.html


 白井 剛(シライ ツヨシ)
 長浜バイオ大学 バイオサイエンス学部 白井 剛 教授
 〒526-0829 滋賀県長浜市田村町1266
 TEL:0749-64-8117


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https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000233.000072793.html

 


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