いまから35年前にロードショー公開された「スタンリー・キューブリック」の「シャイニング」は、当時の若者には強烈な印象を与えた。
だからその後ビデオで、LDで何度か観直したが、最近DVDでまた観直した。(ジャック・ニコルソン怖すぎ😥)
ケースの裏側に「ニューズウィーク」の評がこうある。
「史上初のホラー映画」
「一番怖いものを想像してください。
モンスターのようなエイリアン ? 最悪の伝染病 ?
それともスタンリー・キューブリックの傑作にある悲劇のように、
あなたを愛し守るべき家族から殺される恐怖 ? 」
そうなのだ、この映画は「スティーブン・キング」の原作とは大きくテーマが異なり、ただ恐怖のシチュエーションを取り出し、幻想的で華麗でおどろおどろしいスパイスを効かせた「スタンリー・キューブリック」の「シャイニング」に仕上がっているのだ。
しかも「シャイニング」すら取って付けたようなものでしかなく、「ジャック・ニコルソン」の狂気の「シャイニング」といってもいいくらいに原作とはかけ離れている。
だからと言って、この映画が凡庸で退屈なものではないのは35年経った今でも変わらない。
開発間もない「スティディカム」の効果は絶大だし、怖いぐらいの色彩の鮮やかさと役者の演技がみな怖いし、これはこれでアリ !!なのだが・・・。
満足できないのは原作者、だからこの映画から17年を経て、「スティーブン・キング」自らが作り直してしまったのが
「スティーブン・キング」の「シャイニング」。
「スタンリー・キューブリック」の「シャイニング」を「思い違いだらけで腹立たしい期待はずれの映画」と切って捨てたキングが、自ら脚本を書き製作総指揮を務めた「真・シャイニング」ともいえる作品。
さすがに原作を読んだファンなら納得できるのは当然だが、しかし「映像表現」となると、これは残念ながらちと弱い。
とはいえ、ホラー映画としてのキューブリック版にほぼ満足でも、原作のテーマどおりの結末はやはりキング版の「真・シャイニング」でないとおさまりが悪い。
なぜまた急に映像化された2本の「シャイニング」を観直したのかというと、原作の「シャイニング」の正統な続編が36年ぶりに発売されたからだ。
「ドクター・スリープ」
そしてこれを読む前に、もう一度「シャイニング」を読み直そうと本棚を探したら、「キャリー」も「呪われた街」も「深夜勤務」も「デッド・ゾーン」も「ファイアスターター」も「クージョ」も「クリスティーン」も「ペット・セマタリー」もe.t.c・・・「スティーブン・キング」の初期の傑作はみんな揃っているのに、なぜか「シャイニング」上下巻だけがなくて、新たに新装版「シャイニング」を買い直して、まあ一気読み。
で、その勢いを借りて映像化されたふたつの「シャイニング」も観直したというわけだ。
予習をしっかりした上で、満を持して「ドクター・スリープ」を読み出した。
あの悪霊の巣食う高級リゾートホテル「オーバールック」の惨劇を生き延びて成長した「シャイニング」の持ち主、少年「ダニー・トランス」のその後は ?
父「ジャック・トランス」を苦しめた酒の誘惑は成長した「ダニー=ダン」も苦しめ、心の奥底に封印したはずの「217号室の腐った女・マッシー夫人」や悪霊のドン「ホレス・ダーウェント」の影がチラつきはじめ、忍びよる新たな邪悪「真結族」 。
そして「ダン」をもはるかに上まる「シャイニング」に戸惑う少女「アブラ」との邂逅が、運命の歯車を大きく動かしシルクハットのからっぽの悪魔を引き寄せる。
前作では、普段は実体を持たない悪霊たちは「オーバールック」ホテルを依り代として、さらなるパワーを得ようと幼いながらも強い「シャイニング」を持つ「ダニー」を取り込もうと実体化したが、今作の生き永らえるもの「真結族」はヒトの器を持ち何世紀も実体化し続けるために、時に「ダニー」のような幼くしてパワーを持つ子供たちを餌食にして、アメリカ中を巨大なRV車やキャンピングカーを連ねて旅をし続けている。
そして類は友を呼ぶというか、悪は邪を呼ぶというべきか、「オーバールック」の邪気はからっぽの悪魔を引きつけ、運命の場所へ、「ダン=ダニー」と圧倒的な「シャイニング」の少女「アブラ」を向かわせる。
望んではいない「シャイニング」に苦しめられ、酒に溺れた果てに魂の救いを、ホスピスで旅立つ老人たちを送り出すことに見いだした「ダン」は、「ドクター・スリープ」として受け継がれた血の歴史を客観的に振り返る。
キューブリックの映画ではけっして描かれなかった魂の彷徨を、キングはきちっとケジメをつけた。
小説「シャイニング」を読んでから、ぜひ読むべき物語である。
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