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お好み夜話-Ver2

トノバン 予定のない人生

「加藤和彦ってだれ❓」

このオヤジより10歳以上若ければそう思う人もいるだろう。

それでも「あの素晴しい愛をもう一度」を一度くらいは聴いたことがあるだろうし、アニメ好きならば「超時空要塞マクロス」の「愛・おぼえていますか」は口ずさんだことがあるかもしれない。

あるいは「木村カエラ」が歌った「タイムマシンにおねがい」なら知ってるとか、「竹内まりや」の「不思議なピーチパイ」は聴いたことがあるという人はいるハズだ。

数日前からこのポンコツの脳裏に盛んに浮かんでくるのは「家をつくるなら」と「だいじょうぶマイ・フレンド」、そしてやはり「ジュスト・ア・RONIN」、どれも「トノバン=加藤和彦」の曲だ。

「ジャスト ア Ronin」('85)/ 詞:安井かずみ、曲:加藤和彦、唄:吉田拓郎&加藤和彦

 

こらえきれなくなって日比谷シャンテへ「トノバン 音楽家・加藤和彦とその時代」を観にいった、そしてちょっと、泣いた。

「加藤和彦」は2009年自ら命を断つのだが、「世の中が音楽を必要としなくなり、もう創作の意欲もなくなった。死にたいというより、消えてしまいたい」と遺書には綴られていたという、享年62歳。

先日亡くなった弟と同じ歳、もし自分が死んだら葬式なんてしなくていいけどお別れ会なんてものをやってくれるのなら、「拓郎」と「帰って来たヨッパライ」をながしてほしいなんてかあちゃんに言ったところだった。
 
 

「ザ・フォーク・クルセダーズ」の解散を記念して作られた自主制作レコード「ハレンチ」の中の1曲に「帰って来たヨッパライ」(1967年)は入っていて、それは「北山修」の自宅で収録された多重録音を駆使したサンプリング技法の先取りともいえる画期的でヘンテコな曲だった。

それを取り上げた深夜ラジオでブレイクして、いろんな所でBGMが流れていた昭和の時代は多くの人の頭に刷り込まれた。

その頃広島でアマチュアバンドでならしていた「どこかのボンボンみたいなたくろうチャン」は、「帰って来たヨッパライ」に衝撃を受け「東京に行けば音楽で生きていく道がある」と思ったそうな。

(島崎今日子 著「安井かずみがいた時代」)

「トノバン=加藤和彦」は1947年3月生まれ、「拓郎」は1946年4月生まれの1つ年上なんだけど、音楽のキャリアは「トノバン」が先で、「よしだたくろう」が一躍多くの人に知られるようになりヒットした「結婚しようよ」(1972年)のサウンドプロデュースを手がけた「トノバン」は、「林立夫」や「小原礼」という若手実力派のミュージシャンを集めスタジオセッションを行い、シンプルなスリーフィンガーだった原曲を、ボトルネックギターやまだまだ若手の「松任谷正隆」のバンジョーやハーモニウムなどでカントリーロック調の軽快なノリのいいものに仕上げ、その革新的で斬新なセンスに「拓郎」も師匠と呼ぶほどだったそうな。

また、♪ タン タタン タン タタン 🎵というイス叩きのリズムは「あの素晴しい愛をもう一度」があったらばこそだと思う。

 

「泉谷しげる」を世に知らしめた「春夏秋冬」をヒットに導いたのも「トノバン」で、「がなる狂犬・泉谷」をいなしてアレンジし今だに歌い継がれる名曲にした。

「泉谷しげる」が言うには、当時若手ミュージシャンはみんな「トノバン」詣でをしたという、そうすると箔がついたんだそうな。

 

劇場で思わず「そうなんだ!?」と呟いてしまったのは、「あの素晴しい愛をもう一度」はもともと「シモンズ」に作ったものだけど、あまりに出来が良かったので自分たちで歌っちゃったというエピソード。

家に帰って「シモンズ」のCDを探してみたら、楽曲を提供している多くは関西系フォークのミュージシャンたちで、

ヒットした「恋人もいないのに」は「西岡たかし」の作曲だし、「谷村新司」や「瀬尾一三」、「北山修」と「杉田二郎」、「安井かずみ」となんと「小林亜星」!(◎_◎;)「森田公一」と「青木望」という錚々たるメンバー。

なかでも「思い出の指輪」の作詞は「ミカ」(サディスティック・ミカ・バンドを組む前の福井ミカ)で作曲は「加藤和彦」、二人の初めての共作は今や貴重なんだけど、あの頃はな〜んにも考えずに聴いていたよなぁ。

 

で「サディスティック・ミカ・バンド」さ。

1971年11月に「トノバン」と、ボーカルの「ミカ」(結婚して加藤ミカになった)、ドラムスの「角田ひろ」(現:つのだ☆ひろ)で結成され、そこに名ギタリストの「高中正義」が加入してシングル「サイクリング・ブギ」でデビュー。

しばらくして「角田ひろ」が脱退したところへ「高橋幸宏」と「小原礼」が加入して、1973年に1stアルバム「サディスティック・ミカ・バンド」を発表するとサポートメンバーで「小田和正」がピアノを弾いていたんだって!(◎_◎;)

でもこのアルバム時代が早すぎたのか国内ではあんまり売れなくて、ロンドンで評判になって逆輸入という形で評価されたそうな。

中学生だった昭和の良い子にもちょっと早すぎたからこの頃のことはあんまり知らなかったんだけど、1974年に「タイムマシンにおねがい」の収録された「黒船」が発売になるんですな。

海外で評価されたこのアルバム、いま聴いてもまったく色褪せていないし映画を観ながら自然に足でリズム取っちゃいますがな。

 

1974年には「キャロル」とのジョイントツアーも行われ、これには今じゃ考えられないけど「オフコース」や「荒井由実」も参加していて、「トノバン」は近しかった「永ちゃん」と「ユーミン」をくっつけようとしたという説があるそうな。

でも「永ちゃん」はもう既婚者だったのでそれは叶わなかったけれど、その後は「ユーミン」とも仲良くなったんだって。

ちなみに「ユーミン」と「松任谷正隆」の結婚の媒酌人は「トノバン」と「安井かずみ」だそうな。

ついでに「ユーミン」の「ルージュの伝言」のモデルは、「永ちゃん」と当時の奥さんとの夫婦喧嘩がヒントなんだって(o_o)

(細田昌志 著「ミュージシャンはなぜ糟糠の妻を捨てるのか?」より)

 

「帰って来たヨッパライ」から「サディスティック・ミカ・バンド」の解散(1975年)まで(ミカとの離婚まで)すべて20代の「トノバン」の仕業、すげぇなぁ。

 

押しも押されぬサウンドプロデューサーの「トノバン」がソロアルバム『ぼくのそばにおいでよ』のジャケットに掲載した「児雷也顛末記」 で、

「・・・かような事は他のアーチストに対してもなされているはずで、これでは日本のレコードというものはいつまでたっても消耗品でしかなく、一個の芸術品となり得る日ははるか彼方であります」

 、レコード会社の商業主義で勝手に楽曲をカットしたり順番を変更したりタイトルを変えたりしたことに敢然と抗議して権威に媚びなかった。

 

そんな「トノバン」が30歳の時に「安井かずみ」(38歳)と2度目の結婚をしてから、どちらもそれまでとは「変わった」と様々な人が証言する。

「とにかくZUZU(安井かずみ)とトノバンの二人はいろんな価値観があったんじゃない? すごく似合ってた。ZUZUはトノバンと結婚してから我々が出入るするようなところに(六本木キャンティ)あまり来なくなったね。あの二人には二人の世界かあって、幸せだったんだよ」

と「ムッシュカマヤツ」。

一方、「加藤和彦」の音楽家としての才能は日本唯一と言い切る「吉田拓郎」は、

「雑誌ではヨーロピアナイズされた粋な男のように書かれているけれど、むしろ鈍臭くて、女から見て魅力を感じるわけがないんですよ。だから、自分より先を歩いてくれる女じゃなきゃダメな加藤がZUZUを選んだのはわかるんですけど、歴戦の兵のZUZUがなんでそんな頼りない男に熱を上げたのか。さっぱり分からない」

「僕は80年台半ばに再び安井かずみと出会うんですが、70年代に知っていた彼女とは明らかに違っていました」

と「拓郎節」は手厳しい。

(いずれも島崎今日子 著「安井かずみがいた時代」より抜粋)

ちなみに「拓郎」と「安井かずみ」の再会のきっかけは、「武田鉄矢」が主演した前述の「幕末青春グラフィティ Ronin坂本龍馬」。

音楽では他の人より1歩も2歩も先をゆく「トノバン」だったが、私生活ではいろいろあったことをうかがわせるエピソードだ。

 

映画のパンフレットで盟友「きたやまおさむ」は「トノバン」という唯一無二の音楽家のことを、

「あらゆるレッテルを拒否した、やってみないと分からない、予定のない人生が理想」

の人だと言う。

また、CD「加藤和彦作品集」では

「たとえ同じ夕焼けを見て喜んでいても、結局“心と心は通わなくなる”のです。あれはKK(加藤和彦)とOK(きたやまおさむ)のことだったのです。まったく違う人間が、同じものを見て喜んだ瞬間があったというのも奇跡です。“帰って来たヨッパライ”の歌詞のような、KK帰還の奇跡は絶対に起こりませんが」

と結ぶ。

なんだか、無邪気に学校の音楽の授業で「あの素晴しい愛をもう一度」を合唱する子供たちには聞かせたくない真実だが・・・。

 

 とにかく、「トノバン」という畢生の音楽家のすごさを、生前の「加藤和彦」を知らない若い人にもぜひ観てもらいたいと思った。


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