「クリント・イーストウッド」監督作品は、みぞおちにズンとくる重さがある。
画面から漂う緊張感 - 少々粗っぽくてもたたみかけるように物語を転がしてゆく昨今のハリウッド作品とは一線を画し、静かに、丁寧に積み重ねられた物語が孕むスリリングな展開に、のっけからスクリーンに引き込まれた観客は虚構の“真実”と向き合わされる。
主人公「アンジェリーナ・ジョリー」(ミラ・ジョヴォヴィッチをジョヴォ子と云うように、彼女をこの際ジョリ子と呼ぼう)の、老いと生活のやつれが出た、痩せたシングルマザーにも、また驚かされる。
「ウォンテッド」の凄腕のスナイパー「フォクシー」役や、「ベオウルフ/呪われし勇者」の「グレンデルの母」、さらに「トゥームレイダー」の「ララ・クロフト」の、ダイナマイトボディ&ロケット・オッパイのイメージが焼き付いているからだ。
しかし「ジョリ子」は「すべては愛のために」や「マイティ・ハート/愛と絆」のような役も演じているし、「チェンジリング」の母親役も彼女だからこそできたともいえるだろう。
ボン、キュッ、ボンの役柄だけで見ている、こっちの色眼鏡を外さなければならない。
ただ、アクション映画で見せた、妖艶で有無を云わせない大きな印象的な目からは、ひたすら涙をこぼすものの、仕事に出かける時に引く真っ赤な口紅とメイクが唯一「ジョリ子」を匂わせるのだ。
「クリント・イーストウッド」監督は、病んだアメリカのクレイジーな刑事を演じる側から、病んだアメリカそのものを掘り起こして提示する仕事に転じ、それがもう何年も前から高い完成度と評価を得ているが、今回もそれは見事に成し遂げられたと思う。
行方不明になった9歳の息子の替わりに、別人を連れて来てでっち上げるという、唖然とするような警察の傲慢に振り回される母親「ジョリ子」。
たった5ヶ月程度離れ離れになっていたって、それを見分けられない母親がいるわけがない。
誰もそんな無法が通るわけがないと、「ジョリ子」とともに話の展開に焦燥をつのらせながら、それが“真実”の虚構だということからも目をそらされてゆく。
そうだこの不条理は、1928年のロサンゼルスで起こっただけではなく、今現在この国で解決されない事件にもあるではないか。
北朝鮮による拉致、だ。
正義は、母親の叫びは、現実の今も未解決のままだ。
と、思う間もなく、映画はさらなる悪を登場させて急展開を見せる。
いったい話の落としどころはどこなのかと、上映時間を考えるのは悪い癖。
だが打ちのめされるような語り口で次々と“真実”を突きつけ、そして最後に主人公「ジョリ子」にある言葉を語らせる。
うう~ん、と唸ってしまう、「クリント・イーストウッド」次回作も見逃せない。
いったいどこまで高見へ上ってゆくのだ「ハリー・キャラハン」は・・・。
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