19歳の時に実家を出て、風呂なし共同トイレの四畳半のアパートに(残念ながら下宿ではない)住んだのだ。
青雲の志を秘めて音がまる聞こえのトイレで怒涛のションベンを放ち、明日のために今日も寝る暮らしの中でラーメンライスを嬉々としてすすり、いつかタテだかヨコだかわからんビフテキを心置きなく食いたいという夢をむさぼり、無芸大食人畜無害の二十歳をむかえた。
心の友は「大山昇太」と「足立太」だったかもしれず、なぜかバイト先には九州人が必ずいて、いつしかインチキ九州弁を覚えてしまった。
熊本出身のかあちゃんと一緒になった頃、よく「○○ばってんたい」などと言って、
「そぎゃんこと言わん💢」
と膨れっ面された。
後年、九州各地に行った際にはタクシーの運転手さんや宿の人などに「おいどん」と言うかと聞いてまわったが、
「だれもそぎゃんこと言わん」
と知ってがっかりした。
心の隅まで「おいどん」と「大四畳半」が染み込んでいたんだなぁと思ったのは20代も終わりだった。
「元祖大四畳半大物語」の連載は1970年6月~1974年2月までで全6巻、
「男おいどん」は1971年5月~1973年8月までで全9巻
(迂闊にも第3巻が無いことにまったく気がつかず、今回大慌てでメルカリで入手した)
作者は朝日ソノラマ SUN comicsの「元祖大四畳半大物語」の目次の隣に「わが青春の大四畳半」と題して
「大四畳半シリーズ」誕生の経緯、「男おいどん」との違いを述べておられるが、同時進行していたせいかたびたびシチュエーションが同じだったりして、講談社コミックス「男おいどん」第1巻149ページに、おいどん=「大山昇太」がチリ紙交換のバイトで下宿館の前を通りかかるとばあさんが出てきて呼び止めるシーンがあるのだが、
「あら 足立さん あんたチリ紙交換屋さんのアルバイトしてるの?」
と大四畳半の主人公「足立 太」とごっちゃになったセリフを言ってしまうのだ。
また最終巻の9巻
では、「大山昇太」から三、四代後の子孫「大山降太」(さらに数代後の子孫がハーロックの盟友トチローだろう)はご先祖様とおんなじばあさんのいる下宿館であてどない暮らしをしていて、公害汚染と資源が尽きたた地球を捨て外宇宙惑星へ移住する有資格者にもなれず誰もいない地球に取り残される。
そんな「降太」を不憫に思った「浅野玲子(もうどっからどう見てもメーテルか森雪(おいどんにも森木雪子なる下宿人が登場したが)」は事の真相を知らせたことで追放になり、重力ブレーキの故障したボートで地球に戻る途中で流れ星のように燃え尽きてしまう。
しかし夢にみた原始人になった「降太」はその流れ星をおいどんの時代の幕開けばいと、大繁殖した「トリさん」を引き連れて去っていくのだった。
それは「おいどん・四畳半」から「銀河鉄道999」や「宇宙海賊キャプテンハーロック」へバトンタッチするかのように・・・。
しかし「銀河鉄道999」や「宇宙海賊キャプテンハーロック」はコレクションしていないし、まともに読んだことはなく心はあまり動かなかった。
むしろヒットした作品よりも「ガンフロンティア」や「大草原の小さな四畳半」の方に惹かれてしまった。
「男おいどん」に影響されまくったあと、リアルおいどんともいえる「元祖大四畳半大物語」を読み大エロく大物悲しくもなった。
それはつまり、男はいやが上にも男らしくあらねばならんというのがおいどんの信念でして、つまり男は何事にも男を立てねばならんというのがおいどんの、つまり立つべき時こそ男を立てるべきだと思い、立つべき時に立たねば立つ意味が立たんとつまり・・・。
嗚呼、今の若人には立つも立たぬも意味がわからんと言われてしまいそうな「足立太」のお言葉はつまり「松本零士」大先生の本音のお言葉と思われ、「いい女」は末長く「いい女」であらねばならんというわけで、
このオヤジの「いい女」感は、「松本零士」大先生と「石森章太郎」大先生の描くヒロインで形成されているのであると思われ・・・。
SUN comicsの「元祖大四畳半大物語」の6巻には「西部長屋人別帖」と「大サムライ伝」が収録されている。
これはモロに「トチロー」の物語で、つまり「トチロー」は「大山昇太」や「足立太」の大ご先祖様でもあり大子孫でもありやがて大宇宙にも進出するというわけで、「松本零士」大先生のいわゆるスターシステムちゅうやつは今でいやぁアベンジャーズかマルチバースみたいで、チビでメガネでガニ股の男は「トリさん」と共にいろんな物語に登場して活躍するのですな。
何十年ぶりかで「男おいどん」と「元祖大四畳半大物語」を読み返してみて、ポンコツのジジイになった今でも、大四畳半とおいどんが息づいているのだとしみじみ思ったばってんたい。
合掌 松本零士 大先生‼️