あるところにスチャラカな旦那がおったそうな。
旦那は歳をとることへの恐怖感からか、いつしか蕎麦を打つようになったのじゃ。
蕎麦を打っている時だけは、世知辛い世間や恐ろしい妻から解放されると、それはもうせっせと蕎麦作りに励んでいた。
ある日のことじゃった。
旅の修験者から、山奥で仕留めたの肉をふるまわれ、酒をしこたま飲んだ旦那はタガがはずれて、知ったかぶりのあることないことをほざいて上機嫌になってしまったのじゃ。
女房にたしなめられても止めないスチャラカぶりに、旅の修験者は戒めの術をかけ去っていった。
それからしばらくして、再び旅の修験者が旦那を訪ねると、相変わらずのスチャラカぶりは変わりなかったが、断固としてこう言ったんじゃ。
「わたしが蕎麦を打っているところを、決して見てはなりません」
別室へ消えた旦那を見送り、女房は修験者をすがるように見るばかりであった。
修験者はさても術が効いたかと思い、こっそり別室の様子を窺うと、中から獣の唸り声が聞こえるではないか
細めに戸を開けて覗けば、な、なんと恐ろしや、耳をだらしなく垂らした大きな犬が、背を丸めて一心不乱に蕎麦を打っているのじゃった・・・・・
前足の肉球で蕎麦を延ばし、ガウガウと唸りながら両足で包丁を持って蕎麦を切る。
その滑稽で器用な姿に、女房も修験者も声を失って見入るばかりだったのじゃ。
これがウワサの犬蕎麦なんじゃ
じゃが、いつまでも犬の姿では困るという女房に泣きつかれ、修験者は元に戻す方法を探す旅に出た。
墨田川沿いを両国の方へ向かい、両国橋のたもとにそれはあった。
これはまごうことなく猪ではないか
だれが、何故このような所に吊るしたのか
獰猛なキバを持つ、体調約1.5mもの獣を倒したのは、相当な手だれの者とみた。
そうだ、猪の呪いは猪で解くしかないのだ。
表に回って、“たのもう”と案内を問うたが、まだ営業していなかった。
だがいつか、スチャラカ旦那が犬に変身していない時に、この店「山くじら すき焼 ももんじや」で、しし鍋を堪能すればよいのじゃ。
これで解決じゃ。 カァ、カッ、カッ、
めでたし、めでたし・・・・・・ って、なに
まだ解決していないって
人間の姿に戻っても、しょせん会社の犬だって
そして女房の飼い犬だって
フン、そこまでわしゃ面倒みれんぜよ
ももんじぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~