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本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 池上永一「ヒストリア」

2023年03月21日 | ◇読んだ本の感想。

表紙が傭兵みたいな人だったから、久々にライトノベル物かと思った。
池上永一は多分全ての著作を(図書館から借りて)読んでいるが、
この人は昔、沖縄物とライトノベル風の戦記物?の二本立てだったんだよね。

わたしは戦記物はそこまで好きではなく沖縄だけ書いて欲しいなあと内心思っていたが、
本人がこういう方向も書きたいなら仕方ない。
これを書くことで沖縄物もがんばれるかもしれないしね。

しかしけっこう年をとって、今さらライトノベルもキツイ……。しかも厚い。
読むのめんどくさいやないかい。ぶつぶつぶつ。

そしたら、ライトノベルではなかった。
がっつり沖縄ものだった。


戦時の沖縄から話が始まる。
――沖縄書きのこの人が、今まで第二次大戦の沖縄のことは書いてない。
書かないんだろうなと思っていた。多分心が書けない。
それはそれで、わたしは有難かった。わたしも読むの辛いから。
今回、ついに来たかと思った。沖縄生まれの沖縄書きとして、あの戦争をついに書いたかと。

と思ったら、読み進めていくうちに、フォーカス・ポイントは変わる。
爆撃されて九死に一生を得、戦後の混乱のなかで強かに生きていく主人公。
そして追い詰められて南米へ移民し、そこでのさらに強かな生き方を描く。
なるほど。そう来たか。戦争そのものとはちょっと違うところか。

戦争とがっぷり四つというよりは、主人公のパワフルで危なっかしい、
生き方を描いていく話。
相変わらず破天荒な主人公&極彩色な世界。
濁流の中を泳ぎ切るような人生を、自信満々に悪党たらしく生き抜いていく女。

そこにマブイ落ちを絡めたのは池上らしい話づくり。
日本のマジック・リアリズムの第一人者といっていいんじゃないか、池上は。
マブイ落ちが必ずしも必要な話だったとは思わないが
(なくても十分に波乱万丈でみっちりした話で、むしろない方がまとまっただろう。
ただこれがあったからこそ、最後の衝撃が作れた)
池上しか書かないことだもんね。

破天荒な主人公の人生。上がったり下がったりが激しくて、リアリティはほとんどないが、
まあそこは池上ですから。
わたしとしては各所での臨場感を感じさせてくれただけで十分。
爆撃や、コザの町の雰囲気や、南米の町と人々、移民初期の開拓地。
けっこう大変なことを書いてますよ。まだ日本の範囲はまだしも、
南米を調べるのは大変だっただろう。

労作。単行本600ぺージ超を面白く読み終わった。


が、一つ大きな疑問がある。
この話にチェ・ゲバラが必要だったか?ということ。
わたしの不明だったが、表紙の傭兵のような人はゲバラだったらしい。
ゲバラがある意味主人公の恋人になり、ちらちらと話に顔を出すのだが……

それはあくまで「顔を出す」という程度で、分量もさほどではなく。
この話にゲバラが大事かというとそうはいえないと思う。
ゲバラの素顔をスケッチした程度の意味はあっても、ゲバラ側からして得もない。
史実を曲げてまでも。日系人の恋人なんて史実はないんでしょう?

まして表紙にあんな風に描く意味。あれじゃあゲバラの話だとしか思えないじゃない。
詐欺レベルの事実誤認のさせ方だと思う。

……まあわたしは池上にアマイから、彼がゲバラを書きたかったのなら、
効果は疑問にしてもまあそれはそれでいいか、という方向に流れるんだけど。
しかし表紙に描いたことは許可出来ないよ。いったい何ね?

もしゲバラがこの小説にとって必要不可欠な要素であれば謝る。



この人は。いつかは沖縄戦を、書くんだろうなあ。
書かないと思っていたが、この作品まで書いて、それ以上書かないという選択は
無くなったと思う。
最近刊である「海神の島」――これがもしかしたらそうである可能性もあるか。
近々読む予定。

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