プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 池上永一「王様は島にひとり」

2021年09月09日 | ◇読んだ本の感想。
池上永一は10年前にそれまでの既刊書はほとんど読んで追いついたので、
あとはしばらくご無沙汰をしていた。読む順番が回って来たのでまた読み始めた。
10年ぶりに読んだのはこないだの「トロイメライ」だったんだけど、
相変わらず面白かったのでアリガタかった。

これはエッセイ集。そんなにエッセイを書く人じゃないから、これで2冊目かな。
前の「やどかりとペットボトル」は、その壮絶な子供時代の話を読んで
なんというか痛み入ったし、人生の真実をそこここで衝いていて、
小説とはまた違った方向で面白かった。
変な(いい意味で)小説を書く人ですが、小説とはまた違う。

沖縄の人なので、ナイチャーが知らない沖縄を教えてくれる。

やたらと横断幕を張ること。たとえば一個人の誕生日祝いとか、店長就任祝いとか。
なかには「サンタクロースさんへ 自転車が欲しい 真由より」と、
一瞬、七夕か絵馬か?と悩みたくなるような文面のサンタクロースへのお願いとか。
ちなみに勝手に道端に横断幕を張るのは道交法違反だそうなので、
基本的には張っちゃダメっぽい。

雰囲気のある異国風な街角として写真に撮られることの多い、
米軍キャンプ近辺の盛り場などは、あれはレンズの魔法であって、
昼間など見るとスラム街のように見えるとか。

軍用地の地主の家は見てすぐわかる、豪邸で高級外車が何台も並んでいるが、
沈鬱な雰囲気が漂っている。特に地主の2代目3代目は閉塞感を持っている。

沖縄弁で「だからよー」は万能の言葉。肯定にも否定にも、保留にも使える。
何を言われても「だからよー」と行っておけば間違いない。

石垣島に本土の人が終の棲家(にしよう)として家を建てる。
その家のデザインが、発祥はスイスであるチロリアンハウスだったりする。
何しろ元はスイスだから、窓は小さく壁部分は多く、風が通らず、
高温多湿の石垣島には全くそぐわないデザイン。
急勾配の屋根には台風の風がまともに当たる。
さらに「海を眺めて暮らしたい」と、岬の高台に建てて、防風林もみな切ってしまう。
そこで何が起こるかというと、――地獄の生活だそうです。

台風が来る。1回目、2回目はなんということもなかった。
3回目の超巨大台風で、防風林を切ってしまった土地が崩れ、目の前まで
海岸線が迫った。もう1度台風が来たら家まで崩れてしまいそう。
家の持ち主は土嚢を千個積んで対応しようとするが、
ようやく積み終わった頃に次の台風がやってくる。
積んでは崩れ、積んでは崩れ、9度繰り返したあと、家の持ち主は島から撤退したと。


うーん。わたしも沖縄には幻想を抱いているので、沖縄というとどうしても
無意味にキラキラしたイメージが脳裏をよぎる。
自戒はしているんだけど、知らない土地に夢を描きたいのが人間じゃないですか。
これはしょうがないと思っている。自分に許している。

でも一応、現実を教えてくれるこういうエッセイも読んでおいていいもんだと思う。
ちょっとひねくれていて、ユーモア漂う語り口で、でも鋭い。
読んでちょっともやもやが残るのだけれども、エッセイとしては面白いと思います。


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