物語にもならない

へたくそな物語を書く主の部屋

坊主頭の散髪屋

2018-03-24 13:49:15 | 物語
ある時 おしゃれ好きな散髪屋がいました。
その散髪屋は街でたったひとつの散髪屋なので、正月以外休みはありませんでした。
散髪屋はみんなの髪型をとてもカッコよくまたは美しくしてくれました。
散髪屋はずっとずっと仕事をしているうちに、客が心の中に描いている理想の髪型を読み取ることができるようになりました。
エレガントになりたいけど私には無理よねと思っている自信なさげなご婦人の髪型を見事エレガントにしてあげたり、カッコよくしてほしいけど忙しくて手入れができない中年の男性には手入れいらずのカッコイイ髪型にしてあげました。
そんなある日、珍しく客が途絶えて鏡にふと目をやり映った自分を久しぶりに見ると、なんとも汚いぼさぼさ頭と長い髭が生えていることに気づきました。
「これは大変だ。散髪屋のオレがこれじゃあ面目ない」

翌日、自分の髪を切るために1日だけ店をお休みにしました。
しかし自分で自分の髪を切ろうとするとなかなかうまくいきません。
後ろが見えなくて変な形になったり、右サイドと左サイドと同じ角度で切れなくてちぐはぐになったりして四苦八苦していました。
そこへ友人の魚屋さんが通りかかりました。
「こんにちは」珍しく店が休みになってるので体調でも崩したのかと心配になって覗いてみたのです。
「おぉ いいところに来てくれた。悪いけど僕の髪を切ってくれないか?」散髪屋は友人にいいました。
「え?俺が?髪を切るのは君の専門だろ?俺にはできないよ」
「でもお願いだやってくれ。自分じゃ全然うまく切れないんだよ。代金はちゃんと払うから」
「そういわれてもね」魚屋は困って断りましたが、どうしてもという彼のお願いにそれ以上断りきれず髪を切ってあげることにしました。
魚屋は散髪屋が言葉でいうとおりに一生懸命切りました。しかしやはり上手くいきません。結果、散髪屋の髪型はガタガタのちんちくりんな髪型になってしまいました。
魚屋が髪を切り終わると、散髪屋はやってもらったお礼を言いました。そして友人の魚屋さんに散髪代を支払おうとしまたが魚屋はそれを断り、うちの魚を買いに来てくれればいいよと言って帰りました。
散髪屋はこの髪型じゃあカッコ悪いとも思いましたが、切りなおすことは友人に悪いと思ってそのままにしました。

翌日から散髪屋を再開しました。
しかし、客は店に入ってくるもののに散髪屋の姿を見たとたんにそそくさと帰ってしまうのです。何人も何人もそのように帰ってしまうので、散髪屋は困ってしまいました。

客の心はこうでした。
『いつもの散髪屋さんがいなくなった。それになんだかへんちくりんな髪型した人が立っている。あの人に切ってもらったらあんな髪型になるんじゃないか?』

友人の魚屋にせっかく無理を言って切ってもらったのですが、客足が遠のいては生活ができなくなります。散髪屋は、意を決してバリカンを手に取り坊主頭にしました。それでも客足が戻らなかったので店から離れて客を探しに行くことにしました。
すると、徐々に「あの坊主頭の散髪屋は上手だ」「あの坊主頭の散髪屋は、まるで手に取るようにこちらの理想の髪型をわかってくれる」とい噂さが広まりました。
髪を切り終わると自分の店の名刺を差し出し宣伝しましたので、徐々にまた店に来る客が増え始めました。
そして、店が繁盛し始めると同時に彼の髪が伸び始めてきました。髪が伸びると、今度は「あの坊主頭の散髪屋はどこ行ったの?君で大丈夫?」などと言う客が増えてきましたので、散髪屋は再び坊主頭にしました。本当は自分の好きな髪型にしたかったのですが、ずっとずっとできませんでした。
散髪屋はいつのまにか”坊主頭の散髪屋”として有名になってしまいました。
ある客は言いました。
「君は髪の毛が生えないの?」
「いいえそんなことはありません。髪は生えてきますよ。」
「散髪屋さんならもうちょっとおしゃれにした方がいいんじゃないの?」
「確かにそうなんですけど、私の髪を切ってくれる人がいないんです。」
「あ、なるほどね!」
別の客でもそんなやりとりがよくありました。
客から言わせると、散髪屋なのだからおしゃれな髪型にしているのが普通だと言うのでしょうが、散髪屋から言わせると、この町で自分だけが散髪屋だからおしゃれな髪型ができないんだよということになります。
散髪屋のしたい髪型を誰も読み取ってはくれないし、上手く切れる人もいないのです。そんなこんなで、散髪屋はおしゃれができないまま一生坊主頭で過ごしましたとさ。

 おわり