福島原発事故ではその後、4月6日にようやく2号機の汚染水流出を停止できたとのことで、一安心です。しかし、流出事故に集中している間、他の、特に福島原発の3号機のその後の状況はあまり報道されていません。3号機は プルトニウム にウランを混ぜた 混合酸化物(MOX)を燃料にする プルサーマル を実施しています。それで、先日土壌から検出されたプルトニウムは3号機から出た可能性は否定できません。特に注意が必要なプルサーマルを扱う3号機の今後の状況を厳しく見守っていきたいと思います。
米国の MIT の物理学者である Dr Josef Oehmen が、MIT-NSE というサイトでこの原発事故に関する記事を毎日発表しています。その中の「プルトニウム」に関する項目を以下に紹介します。
環境のプルトニウム (3/30/2011 記事)
最近よく聞くニュースや、このブログに寄せられる質問の多くは、福島の原子炉の周辺の土壌および水における プルトニウム の検出に集中しています。この記事では、この状況に関して現在分かっていることと、環境および人体に対する考えうる影響を概略します。
これまでの測定
3 月 21 日と 22 日に、原発近辺の 5 箇所の土壌サンプルがプルトニウムの 同位体 の存在を示しました。これらのサンプルのうちの 2 つは、同位体プルトニウム238 を含んでいました。通常、他の同位体に対するプルトニウム238 の比率が大きいということは、その物質が原子炉内で生成されたことを示します。それは、プルトニウム238 が生成されるには、以下のプロセスのうちの 1 つが発生する必要があるからです。
■ ウラン235 内で 中性子 が連続的に捕獲されて、ウラン237 が生成されます。ウラン237 は崩壊してネプツニウム237 になります。それの半減期は 6.75 日です。ネプツニウム238 は別の中性子を捕獲し、プルトニウム238 に崩壊します。
■ 中性子が高速運動することにより、プルトニウム239 の原子核からさらに別の中性子が放出されます。
上記の 2 番目の反応は、核兵器の爆発の際に起きますが、めったにない現象です。最初の反応は、核爆発ではほぼ不可能です。必須の一連の捕獲と崩壊が起きるより先に、兵器そのものが破壊されるからです。よって、2 つのサイトでプルトニウム238 が検出されたということは、その物質が原子炉から出たものであることを示す根拠になります。
現時点では、MOX 燃料 を用いる 3 号機と、他の炉心のうちのいずれかの、どちらからこの物質が放出されたかを判別するのに十分な情報はありません。
他の 3 つのサイトではプルトニウム238 は検出されていないので、それらのサイトのプルトニウムは、過去の核兵器実験の残滓であると考えられます。参考までに申し上げますと、福島市におけるプルトニウム崩壊の自然速度は 0.61 Bq/kg、つまり土壌 1 kg あたり 0.61/秒 の崩壊速度になります。東京電力によると、原子炉サイトで測定されている質量は、このレベルのおよそ 2 倍とのことです。
拡散経路
上記のとおり、原子炉サイトの土壌にプルトニウムが取り込まれた経路は、今のところ明らかではありません。ただし、拡散するのは、概して以下の 2 つの経路のうちのいずれかになります。
■ 煙などの特定の物質に付着して。
■ 水溶液または懸濁液として。
原子炉サイトのプルトニウムがどちらの経路で運ばれたとしても、そのプルトニウムが遠距離を移動することはまずないと考えられます。その質量が大きいということは、火災の場合でさえ簡単に エアゾール化 しないことを意味します。
適切な条件が整えばプルトニウムは燃焼するという事実が語られてきました。 ただしその燃焼は、プルトニウム金属が酸化プルトニウムに変わるときに起きます。原子炉内のプルトニウムはすでに酸化物になっているので、燃えやすくはありません。
最後に付け加えると、プルトニウムはあまり水に溶解しません。もっとも良い条件下でも、プルトニウムの水溶性は約 55 マイクログラム/L です。プルトニウム酸化物の水溶性はそれよりもっと低くなります。
現時点での条件下で、プルトニウムが原子炉サイトから移動した可能性はあるのでしょうか。その可能性はあります。ただし、人の健康に影響を与えないわずかな量である可能性が高いと思われます。
健康に対するプルトニウムの影響
放射能の危険性に関して言えば、プルトニウムは、体内への取り込みや吸入により危険を生じます。それは、プルトニウムはアルファ放射体 であるからです。
アルファ粒子 は、皮膚または紙 1 枚で遮断できますが、肺の内部の肺胞や胃腸部の索の裏層など、人体のきわめて繊細な部位に大きな損傷を与える可能性があります。プルトニウムは骨にくっつきやすいのですが、人体内部の液状組織での溶解性が低いため、人体に効率よく吸収されることはありません。
プルトニウムを体内に取り込んでも、そのほとんど (99% 以上) は、1 週間以内に排泄されてしまいます。プルトニウムを吸入した場合、その 5%~60% (測定機関によって想定値は異なる) は体内にとどまりますが、残りはすぐに排出されてしまいます。
しかもプルトニウムは、他の重金属と同様に、化学的に有害です。どのくらいのプルトニウムが人体にとって致命的かに関してはいくつもの予想がたてられていますが、その大多数で、信頼に値する確証は得られていません。
研究室のネズミを使った実験では、体重のキログラムあたり 700~1000 マイクログラムを注射した後 1 カ月以内にその50% が死亡したことが示されています。これは、68 Kg の人に 47.7~68.2 mg のプルトニウムを注射したことになります。吸入や服用によるプルトニウムの摂取効率は低いので、その分だけ、実際に疾病または死亡の原因となる量は高くなります。
ネズミでの実験結果が人間の場合にも直接当てはまるかどうかは不明です。プルトニウムの多量摂取で死亡した人は今だかつていません。プルトニウムが人体の健康に及ぼす影響に関して手元にある情報は、プルトニウムを扱う作業員 (数十年にわたってごくわずかずつ線量を受ける)、慢性疾患の患者に関する一連の研究、原爆の生存者の履歴 (他の一群の放射性同位体全体に対する被ばくによる線量との区別が困難) などのケース・スタディーから得たものです。
Sources: Journal of Radiological Protection, Los Alamos National Laboratory, TEPCO, American Chemical Society.
04/08 追記:ブルトニウム検出の意味は? も参照してください。