6年で60店も閉店したのに、むしろ売上高は伸びている…「ブックオフ」に起きている大変化を解説する「一時的優位の連続」というセオリーに沿った勝ちパターン_中川 功一様記事抜粋<
1年間で10店舗超のペースで店舗数が減っている
「本を売るならブックオフ」のキャッチフレーズで広く知られた、書籍・AVソフトのリユース店「BOOKOFF(ブックオフ)」。2024年9月、そのブックオフが大量閉店をしていることが話題となった。
発端は、2024年9月24日。講談社「現代ビジネス」に寄稿された記事である。同報道では、関東エリアにおいて今年の10月だけでも4店舗が閉店を予定しており、他エリアにおいても今年は少なくとも3店舗が閉店していることが報じられ、ブックオフが窮地にあるのではないか、と締めくくられていた。
折しも、同社では従業員による架空取引などの不正が発覚しており、日本人の読書離れも絡めて、もう中古本業界が成り立たなくなっているのではないかという悲観的な見通しが示されたのである。
ブックオフ、大量閉店。まずはこの点をファクトチェックしておきたい。会社説明資料によれば2018年3月期で「ブックオフ」の店舗は699店舗あったが、2024年5月期では619店舗と、80減となっている。国内ブックオフ事業(ブックオフ プラス、スーパーバザーなど含)では、全795店舗が全735店舗となっている。
これをもって大量閉店とするかどうかは意見が分かれるだろうが、ブックオフが店舗数を減らしていることは事実である。
それでも売上高は伸長している
ただし、この話には続きがある。ブックオフを運営するブックオフホールディングス株式会社の決算上は、基本的には売上・利益ともに増加傾向にあり、閉店が続くなかでも同社は好業績となっている
店舗の閉店ラッシュと、堅調な業績。実はこの2つは、相反する事象ではない。実際のところブックオフの大量閉店は、新しい経営戦略のセオリーに則った、業界の環境変化に適応する適切な策なのである。
ブックオフでは今、何が起きているのだろうか。そこから、私たちが学べる、「変化の激しい業界での勝ちパターン」とは。経営学の理論から、解説
小売業界での成功のキーファクター
小売業界には「業態のサイクル」があると言われる。百貨店が衰退し、スーパーマーケットが興り、そのスーパーからコンビニへと業界の中心業態がシフトする。さらにその先にはeコマースやショッピングモールが勃興……という業態の大きな転換をみて、業態が一定期間で入れ替わっていくようなサイクルが存在する、とした仮説である。
この背後には、消費者の生活様式の変化がある。世代を追うごとに人々の暮らし方は劇的に変わっていき、かつての業態はもはや新世代のニーズには刺さらなくなるのである。技術の変化もある。物流やITシステムの改革により、新しい業態は旧い業態よりも一般的に効率性が高く、結果として収益性が高くなる。
こうしたサイクルの存在を念頭に置くならば、小売業界で長く生き残っていこうとすれば、新しい業態をスピーディーに生み出していくことが必要となる。
事実、セブン&アイはデパート(イトーヨーカドー)からコンビニへというシフトを果たした結果として大きく飛躍し、そしてまた、旧来のデパート事業を保持し続けていることが現在は足かせになってしまってもいる。業態転換に先駆け、断固として変化することは、小売業界での成功のキーファクターなのである。
対立する2つの経営戦略
このことは、経営戦略の理論によっても既に理論化されている。
もともと、経営戦略論の中では、企業は長期にわたって安定した収益をあげたいならば、「持続的な競争優位」(sustainable advantage)を作るべきだとされてきた。代表的な論者は、日本でも世界でもMBAの戦略論スタンダードテキスト『企業戦略論』の著者であるJ.B.バーニーである。
バーニーは、外部環境にある機会を狙い、脅威を排除するような戦略では、企業の実力が育たないから、長期的な安定性が得られないとした。トヨタ自動車のように、ものづくりの能力を磨き、技術を最新にし、ディーラーの技能を高めていけば、多少の環境変化にはびくともせず収益を稼げるとしたのである。
ここから、企業経営においては、持続的な優位性を発揮できるように内部資源を磨き上げよとする「リソース・ベースド・ビュー」が誕生する。
だが、これに異を唱える学派が登場してくる。あまりにも激烈な環境変化の中では、特定の事業環境に適合するような競争力を構築しても、意味がないとするのである。
代表的な論者であるリタ・マグレイスは『競争優位の終焉』において、変化が激しいときには、持続的な優位を作ろうとするのではなく、現在の状況に即応する一時的な優位(temporary advantage)をつくるべきだと論じる。
ブックオフの狙い
たとえば、高級ブランドとして出発したアルマーニは、消費者のニーズの変化に合わせて、より廉価でアヴァンギャルドなブランドである「エンポリオ・アルマーニ」を出した。さらに、消費がファストファッション化していく中で、より素早くトレンドを追いかけるような「アルマーニ・エクスチェンジ」を生み出し、まさしく時代の変化に合わせてブランドのありようを見直しながら、存続と発展を続けてきたのである。
この「一時的優位」の視座からすれば、ブックオフが何を狙いとしているか、分かってくるだろう。同社は、本が読まれなくなる時代に合わせて、いま、新しい時代に合わせた業態転換を図っているのである。
都心の小型店舗をスクラップし、アパレルを取り扱う複合店「BOOKOFF PLUS(ブックオフ プラス)」(平均売場面積約300坪)、さらにブランド品、ベビー用品・腕時計・ブランドバッグ・貴金属・食器・雑貨等を取り扱う大型複合店「BOOKOFF SUPER BAZAAR(ブックオフ スーパー バザー)」(同950坪)を郊外大型店舗として展開することで、時代に適合し、業績を改善している
依然として書籍・ゲームは強いが
その様子は店舗の内訳に一目瞭然である。2018年3月期をみると、ブックオフ699店舗、ブックオフ プラス55店舗、ブックオフ スーパー バザー41店舗となっている。
2024年5月期では、ブックオフ619店舗(-80)、ブックオフ プラス68店舗(+13)、ブックオフ スーパーバザー48店舗(+7)となっているのだ。
さらに興味深いのは、「スーパー バザー」へのシフト以外にも、次なる変化を見据えた準備は怠りなく進められている。トレーディングカード専門店事業、おかたづけ事業、CDプラリサイクル事業などである。
またグループ内では、ブックオフだけではリーチし切れない顧客層をターゲットに、USEDブランドのファッションアイテムを販売する「hugall(ハグオール)」、ジュエリーのリペアなどを行う「aidect(アイデクト)」という事業を始めている。
ブックオフ事業(国内直営既存店)において売り上げの約半分(47.1%)は、いまだ書籍とソフトメディア(音楽、ゲームなど)が占める。それでも同社は、旧来の本を主として扱う通常のブックオフの閉店を進めつつ、それ以外の品を幅広く取り扱う大型店舗化を推し進めていることがわかる。
変化し続けて、成功してきた企業たち
変化し続ける産業に合わせて、業態転換を続ける。皆さんもぜひ身の回りで探してほしい。いくらでも事例は見つかるはずである。ここでは典型的なものを3つピックアップしよう。
① ダイソー(大創産業)。100円ショップでおなじみであるが、同社がもはや100円ショップにだけ頼っているわけではないことは、まだあまり知られていないかもしれない。この物価高の中で、同社も業態転換を進めている。300円均一店であるTHREEPPY(スリーピー)や、さらにハイエンドなStandard Productsなどの新ブランドを立ち上げ、変わりゆく時代情勢に応じた事業を構築しようとしている。
② ベイシアグループ。もともとスーパーマーケットのベイシアをスタートとしているが、カインズ、ワークマンと郊外在住の顧客ニーズに合わせた新業態にシフトし、現在は郊外で進むショッピングモール化の流れを受けてカインズモールを構築している。一つの業態に留まらないことで、市場機会を確かに獲得し続けてきた。
③ ゼンショーホールディングス。「すき家」を中核とするグループだが、2001年のBSE問題に際して、ファミリーレストラン「ココス」に資源をシフトしたり、「なか卯」「華屋与兵衛」などのチェーンを買収するなど多角化を図った。2002年からスタートさせた「はま寿司」も、スシローやくら寿司に続く回転ずしの有力チェーンとなっている。消費者の気まぐれな外食ニーズに、これでもかというほどに食らいついて変化を続けてきたグループである。
こうした種を撒いておくことが、事業環境の変化のための準備として大切であることをよくよく理解しているのである。
既存事業が衰退する前に、新しい事業を構築し一時的優位を連続的に構築していく。本が売れなくなっている時代に、中古本業者であったブックオフが、閉店しながら躍進している……これらの事実は、「一時的優位の連続」というセオリーに沿った、筋の通ったストーリーなのである。
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