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あべっちの思いをこめた雑記帳

童謡「たきび」のエピソード

    たきび

  かきねの、かきねの、まがりかど、
  たきびだ、たきびだ、おちばたき、
  「あたろうか。」「あたろうよ。」
  きたかぜ、ぴいぷう ふいている
                    巽聖歌 作詩

 

 昭和16年生まれのこの歌は、師走になると決まってラジオから流れたものだった。それが聴けなくなって久しい。ラジオそのものを聞かなくなったのも理由の一因ではあろう。

 小学生時代には寒い日によくこの歌を歌いながら学校へ行った。 途中おじさんたちがたき火をしていて、登校の身にあたろうかどうかしばし迷ったものである。
 歌っていると、心まで温かくなるたき火。イメージしているだけで心までほんわかしてくる詩とメロディー。

 そもそもこの歌は昭和16年にNHKが幼児番組「歌のおけいこ」で企画したもの。
 放送に先だって、NHKが「子どもテキスト」に掲載した詩を作曲者の渡辺茂氏に曲付けを依頼し、わずか10分ほどで音符をスラスラと書き込んだというエピソードが残っているようだ。
 初めてラジオ放送したのは、80年前の今日のことである。

 当初は9日から11日までの3日間だけの放送の予定であった。が、生憎放送前日に真珠湾攻撃による太平洋戦争が勃発してしまった。
 軍より「たき火は敵からの攻撃目標になる」「資源のムダだ」というクレームがあがり、急遽11日は放送中止。わずか2日間のみの放送で姿を消した。

 その後昭和24年、NHK「歌のおばさん」で松田トシ、安西愛子により復活はした。しかし今度は、消防法により禁じられているという理由によるクレームが消防庁から発生した。
 それでも歌の力はすごい。あれこれ考え、ポスターや絵本などには大人やバケツを書き入れることによって、その後も長く愛唱され続けている。

 この歌のモデルになった場所は東京中野区上高田に当時住んでいた作詩者、巽聖歌の近所らしい。
 当時はのどかな畑が広がっていて、そのひとつが鈴木新作さんというお宅の庭でたき火をしている様子を聖歌が何度か見て詩の構想を練ったようだ。聖歌36才の時の作品とか。

 2番の「しもやけ おててが もうかゆい」の部分に注目したある化粧品会社が、お子様クリームのコマーシャルソングとして使わせてほしいとの依頼を巽氏がきっぱりと断ったという話は、いかにも童謡詩人としての威風があって、なかなかうれしい話である。

 また聖歌の故郷である岩手県紫波町には「たきび」の歌碑がある。
 少し前にそこを訪ねてみたが、ひっそりとした場所に堂々と建っている。同行のみなさんと合唱した時、4月にもかかわらず、たきびのあたたかさを感じてならなかった。
 歌のあたたかさ
 人のあたたかさ

 昔なつかしいたき火で、ふっくらとしたお芋の焼きあがったあの食感と風情は、もう二度と帰ってこない。
 メロディーを口ずさみながら、消えていく冬の風景のひとつをふと思い浮かべていた。

 

                  「童謡唱歌歌謡曲など(15)たきび」

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