ここ数日、わが家の庭の隅の草などのところに、バッタをみかけるようになった。夏の暑さからいくらか涼しくなってきたからだろうか。今日もまだ小さいバッタがスイスイと遊んでいる。手のひらに乗せると、また全身で飛びはねる。
そういえば日が暮れ暗くなり、時間が過ぎるにつれ虫の鳴き声を聞くようになった。
あれ松虫が鳴いている
チンチロ チンチロ チンチロリン
あれ鈴虫も鳴き出した
リンリン リンリン リーンリンあ
秋の夜長を鳴き通す
ああ おもしろい虫のこえ
この歌は明治43年8月発表の文部省唱歌。
タイトルが今では「虫の声」に変わっているが、もう100年以上も歌われている。
でもその期間、同じ虫が鳴き続けていたわけではない。
昭和7年に2番は
きりきりきりきり きりぎりす
から、 きりきりきりきり こおろぎや
に改定された。
きりぎりすは「チョン、ギー」と鳴く。
キリキリと鳴くのはこおろぎというわけだ。
今となってはきりぎりすの方がよかったかなと思う。
子供が虫の鳴き声を間違えてはこまるというのが理由らしい。では歌詞を作った人が虫の鳴き声を知らずに作詞したのだろうか。
よくよく調べてみると、そんなことはない。王朝の和歌に現れるキリギリスという虫はコオロギのことなのである。だからコオロギはキリキリと鳴くので、当時としては正解なのである。結果として理科に文学が負けてしまったということになる。
そのために「きりきりきりきり きりぎりす」という唱歌のリズムが崩れてしまった。
秋の夜長に聞こえる虫の合奏をテーマに、テンポのある歌。
文語体の唱歌が多い中、明治の末期には珍しく擬音声や擬体音を多く取り入れた名曲。
最近は農薬などの影響で、野外でも虫の声が聞かれなくなり、子どもたちはもっぱらデパートでその声を聞くようになった。
美文調ではないこの歌にかつては子どもたちが思いを込めて歌っていたものの、今では虫そのものも少なくなり、この歌を歌う子どもたちもほんとうに少なくなってしまった。寂しいというだけでは言いきれない何かがある。
虫も歌も、だんだんと忘れ去られて姿を消すのであろうか。
そんなことはないと言いたげに、虫は今夜も盛んに鳴いている。
「童謡唱歌歌謡曲など(21)虫のこえ」