鎌倉の街の背後にそびえる大倉山山腹に、びょうと風がふいている。
鎌倉の周り北東西三方に山山がとりまき、南は海に開いている。鎌倉は自然
の要塞であった。大倉山山頂から頼朝が作りあがた要塞都市の姿がよく見え
る。文覚はだれにも手出しできぬように、この決闘場を選んでいた。
伊豆からの春嵐がふきすさぶ山頂に鬼が二匹。
「鬼一、今度が最後の勝負ぞ。いずれにしろ、お主らが丹毒で、頼朝様、もっ
ても7日だ。お主らを倒しておかねばのう。この鎌倉幕府が持たぬわい」
鬼一も構えている。
「おおよ、その勝負、受けたぞ、文覚。俺も京都一条の鬼一法眼。あとくされ
ない勝負だ。これで引き下がったとあっては、俺の名折れよ」
二人の体に、伊豆からくる少し早い春風が、吹き巻いている。
人の気配のない大蔵山の山頂に、二人とも八角棒を手にして微動だにしない。 . . . 本文を読む