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その腕もて闇を払え第6回クロス・クライストは、リチャード・コーヘンから孫のカレンの救出を頼まれる。しかしデスゾーンでは人間の体でなくなると、救出計画の立案者マーカス大佐が言う。

2021年06月29日 | その腕もて闇を払え
SYその腕もて闇を払え(1980年作品)クロスは、我妻と子を奪われコーヘン財閥に復讐を誓う。20年後隕石が落下、地球生態系が変化、疫病が。デスゾーンの研究中の娘カレンを助けにクロスが呼び戻される。
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その腕もて闇を払え第6回クロス・クライストは、リチャード・コーヘンから孫のカレンの救出を頼まれる。しかしデスゾーンでは人間の体でなくなると、救出計画の立案者マーカス大佐が言う。
 

その腕もて闇を払え第6回

(1980年)「もり」発表作品

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

http://www.yamada-kikaku.com/

 

■2071年10月、USAニューヨーク郊外。

「そりゃ、あんたの罪業だぜ、。死んでくれるなよ。まだ俺は完全な情報をもらっていないに

 「心配するな。まだ私は死なん。すまんがこの服の中にあるハンドトーキーのスイッチ

をいれてくれんか」

 

クロス・クライストは、リチャード・コーヘンの上着から小型の機械を取り出し、スイッチを入れ、コーヘンの顔の側へおいた。

 「クーガル。応援を頼む。他の奴は皆、殺された」

 

 それからクロスの方へ視線を向け、話を続ける。

 

「絶対死なんよ。君が孫のカレンを助け出してくれるまで、ミサイルの発射を止めなければならんからな」

 「こいつらは誰だ」

 

 クロスは道路に人形のようにころがる死体の群れを見て言った。

 

 「わからんな」リチャード・コーヘンはせき込む。

 「とにかく、私が自分の孫カレンのために、デスゾンへのミサイル発射を遅らせている事で、人類全体を危険にさらしていると考え、気にくわんと思っている連中がいる事は確かだな」

 

クロスは、車の残骸から、カレンの立体写真をてうやく探し出した。

コーヘンヘ写真を見せ ながら、言った。クロスは決心したのだ。

 

 「さあ、俺はこれからどうすればいいのだ」

 

 リチャード・コーヘンの顔にわずかに笑みがみられた。

 [やってくれるのだな]

 

  青い顔だったが、喜びの表情は隠せない。

 

 「そうだ。俺は大パカに違いない。娘のために死んでやるよ。父親として何もしてやれな

 かった親が、してやれる唯一の事らしい。彼女はジャネットにそっくりだ」

 「そうジャネットに生き映しだよ」コーヘン強調して言った。

 

 「クーガのヘリがもうすぐやってくる」

  コーヘンは横たわったまま言った。

 

 「君はヘリに乗り、リーマス基地へ行き、マーカス大佐に会い、彼の指示に従ってくれ。

 総ては彼が知悉している」

 「マーカス大佐とは何者だ」

 

 「地球連邦軍の情報将校だ。四男のデリー・コーヘンの上官でもあった男だ。私の陣営のプレーンの一人だ。カレン救出作戦はこの男の計画だ。我我はリーマス空軍基地へ向かっていたのだ」

東の方からヘリが2台やってきた。コーヘンは最初のジェット・ヘリに収容された。

2台目のヘリはクロス・クライストのためのものだ。

 

「待て」タンカの上でコーヘンは上半身を起した。

「頼むぞ、クロス・クライスト、君だけがカレンを救える」

 

それから、コーヘンは手をさし出した。

 

クロス・クライストとコーヘンは握手をかわした。

お互い一生涯で一度切りだろう。

 

世界の王者ジチャードーコーヘンもいまやおいぼれた孫をおもう一人の老人にすぎないのだ。

 

クロス・クライストにしても、生きてこのこちら側の世界へ帰ってくる公算はまるでない。

 

ヘリは飛び立ち。連邦軍マーカス大佐のいるリーマス基地へ向かった。

 

クロス・クライストは考える。

 

デズーゾーンへ辿り着くまでかなりの難関があると思わなければなるまい。

 

さらにミサイルの発射をあの状態のコーヘンがいつまでストップをかけておけるか。

 

全てはコーヘンの政治力にかかっている。加えてあの疫病デロスにクロス・クライストがどれほど鍛えるかだ。発熱がひどけれぱ動きがとれまい。条件は最悪だった。

 

■2071年10月、USAリーマス基地

 

ヘリコプターが飛行場へ到着すると、若い男がジープで走って来た。クロスがヘジから降りると挙手した。

「クロス・クライストさんですね。マーカス大佐がお待ちです」

 

クロス・クライストは急いでぴIプヘ乗ぴ、司令部の建物へと向かった。

「マーカス大佐」の標示がでているドアを若い男があけた。

 

マーカス大佐は、推定年令50才。身長180m以上。筋肉質だった。目はたかのようで。ユ

ヤ鼻、黒々とした髪。一種、近よりがたい印象を与える。一種人間ではない。何かギジ

ャローマ神話の一人をおもわせた。

 

「コーヘンをよく助けてくれた。私にとって、彼は重要な人物だからね」

 

「私にとっては好ましい人物ではない。俺に死刑を宣告した男だ」

 

「死刑を宣告した男か。それじゃ。私がその死刑執行人というわけだ」

クロス・クライストを外へ出るようにうながした。

 

どうやF部屋には盗聴器がしかけられているらしい。

「私についてきてほしい」大佐は今度は滑走路に向かって歩き始めた。

「少なくともここでは盗聴される可能性は少ない。この基地でもコーヘンに反対する陣営

の息のかかった者が潜入している。すでに君が私に接触したことは報告されているだろう。

コーヘンが負傷したことは今聞いたばかりなのだ。時間が足りなくなった。今。彼が負傷

することは非常にマイナスだ」

 

 「ミサイルの件か」

 「それもある」

 

「それに君と彼との関係は何なのだ」

 

「一種の後援者の一人と考えてもらっていいだろう」

 

戦闘機群の方へ向かう。

「マーカス大佐、飛行機に乗り込むようだろうが、どうするのだね」

 

「細菌研究所を襲うのだ」

「襲うだと」

「君はまさか、細菌研究所が、君のためにデロスの病原体をそなえて待っていてくれると

思っていないだろうね」

 「もちろん思ってはいない」

 「心配しなくてもいい。コーヘンの力で暗黙の了解はとってある。が、あくまでも襲撃さ

れる建て前になうているんだ」

 

「あんた、一体何者なんだ。一介の情報将校がそこまで手かくぱれるとは考えられない」

「私の正体はいずれわかる時がくるさ」

「もう一つ質問させてくれ」

「何だね」

「RM計画とは具体的にはどんな計画なのかね」。

 

「それはデス=ゾーンへ行けばわかる。しかし、クロス・クライスト君、これからおこる事は、いくら君が外宇宙で経験をつんできたとしてもだ。君の想像を絶する出来事がおこるに違いない。それはあらかじめ言っておくぞ」

 

「あんたは一体。それにあんたは、俺が生きてこちらの世界へ帰ってこられるように確信

しているようだな。それはなぜだ」

「一種の力yとでも言っておこうか」

クロスには問いかえす気力がなくなっていた。

 

マーカス大佐はゆっくり話した。

 

「デスーゾーンはまるで「死の地帯」のように思われているが、そうではない。一つの「新しい

世界」なのだ。地球に異なる2つの世界が存在していると考えてもらっていい。我々が住む

世界とデス=ゾーンだ」

 

クロス・クライストとマーカス大佐は、ようやく飛行場のかたすみに駐機してあるVTOL隨に辿り着いた。

 

■2071年10月、細菌研究所内。

「君にまず、目にしてもらいたいものがある」

 

細菌研究所に押し入ったクロス・クライストに対して、マ-ガス大佐は言った。

 

彼の持つプラスチックの身分証明カードは各フロアのチェックポイントを切り抜け地下最下層の機密セクションへと降りていく。

 

 

 研究所の全員は倒れている。

通風口を通じて全機構内へ睡眠ガスが送り込まれていたの

だ。二人は防毒マスクをつけていて、念のため防疫服を着ている。

 

「何だね。俺を驚かすつもりなのかね」

「いや。違う、念のため事実を知っていてほしいだけだ」

 

「この部屋だ」

機密番号岨X.入室禁止の表示がかけられている。魔法の杖ともいえるべきマーカス大

佐のプラスチックカードがこの部屋のドアを開けた。

 

「うっ」

思わず.クロス・クライストは叫んだ。

彼はこれまでの長い宇宙生活の間。いろんな生物をみてきたが、これは理解の範囲をこえている。表現しようがない。

 

「この生物は一体」

「これか? これは人間だよ」

「これが人間だと」

「そう人間なのだ」’

確かに顔があり、四肢はあるのだが、人間とそこしれない異形のものが融合合体したよ

うにみえるのだった。

「何か人間の体にへばりついたのか」

「いいや、そうではない。体のそぱにあった無機質の物体を体の中にとり込み変貌したの

だ」

「体の中にとり込む」

 

「非常な高熱がでるのがこの疫病の特徴なのだが、その瞬間。まわりのベッドならぺ。ド

の中に沈み込んでいくようにみえるのだ。そしてまわりの物体が空を飛び、まるで磁石の

ようにひきよせていく。そして体内で変化をおこし。皮膚が人間の皮膚でなくなる」

 

「そいつは病気で死んだ男の体なのかね」

「いや、違う。病気で死んだ人間たちは普通の体のままなのだ」

「あの男は、生き残った男なのだ。サンプルの一人として連邦軍がデスゾーンから誘拐

してきたのだ」

「生きていた時。人間の言葉を解したのかね」

「いや。全然ダメだったようだ」

「そして、この俺もこのような体になるというわけだな」

「そうだ。ここに内蔵されてあるサンプルの死体と同じようにな」

クロス・クライストは冷汗が流れていた。

 

「それじゃ、君に病菌を注入する」

 クロスにはまたあの時の悪夢がもどってくるようだった。

 

その腕もて闇を払え第6回

(1980年)「もり」発表作品

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

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