宇宙から還りし王(山稜王改題)第31回
(1978年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
地球意志はその時ゼノウ将軍を端子としていた。
アゴルフォスはもう完全に過去に投下させている。
「あのうらみ、ここではらしてやる」アゴルフォスは手を動かし始
めた。
ケインもまた「地球意志」に動かされている。ゼノウになりきっ
ていた。
「アゴルフォス、また同じあやまちをくりかえすのか」
「だまれ、ゼノウ、サイキックの恨みを知れ」アゴルフォスは手を
振った。
「ぐわっ」
叫び声をあげたのはアゴルフォスの方だった。右手が吹
き飛んでいた。
「わからんのか、アゴルフォス、君の空気切りの技など私にもっか
える。君の空気切りはその一瞬、そこの空間に真空状態を作り出す
ことはわかっている」
「くそっ、アゴルフォスの最後の力を見ろ」
それでも、アゴルフォスは、血を吹き出しながら残りの左手を持ちあ
げていた。
「死ね、ゼノウ将軍」
アゴルフォスの眼は悲しみをたたえていた。
ケインは地面に倒れていた。巨大な空気の圧力が彼を地面にはい
つくばらせていたのだ。
が、アゴルフォスの首の部分が切れて飛びあがった。胴体から大
量の血が一度に吹き出し、あたりの大地を朱に染めた。
やがて、天ご空から吹き飛んだアゴルフォスの首がころがり落ちた。
ネイサンはその首を愛しげに胸にいだいた。
「くっアゴルフォス」
ネイサンは涙を流していた。そしてケインの
顔をにらみつける。
「「地球意志」、君は楽しいかね。君の通ったところには、血のに
おいがいつもするではないか。「地球意志」、お前は征服欲の権化
だよ。我々はハーモナイザーはそれを許せるわけがない。
君はマーガレットの一部となり、アンバサダー号に隠れ、頭脳部
位となり中央脳ににせの地球の位置のデータを与えた。それでアン
バサダー号は幽霊船となったのだ
「そう、私はマーガレットとしてアンバサダー号が地球帰還する
のを阻止し、君がふ化するのを防いでいた。
そして今は、君と、この世界樹を滅ぼすためにここラシュモアヘ
来たのだ」
「もう、話しあいの余地はないというわけだな」
「それは、君もわかっているだろう。タンホイザーゲイト以来、君
と戦っているのだから」
「ケインの体にいう。「地球意志」と離れろ、君もわかっているは
ずだ。君の体は地球意志のおかげで血にまみれていることがな。君
は反乱鎮圧特殊エージェントだった。古代の小説「ケイン号の叛乱」
からそのコードネームがとられたのだ」
ケインは憶い出していた。彼がいかに多くの宇宙軍を抹殺してき
たかを。そして反乱鎮圧特殊エージェントとして働いてきたかを。
「ケイン、幽離しろ」
ネイサンが叫んでいた。
その言葉の直後、一条の雷が、ケインの体を貫く。
ケインは大地に倒れた。
■
白髪の紳士が歩いてくる。
このフロント街をなりわいの場所にする
移動ブッカーのトロリーは、その服装から上客だと眼をつけた。
移動して本を売っているのだ。
さいわい、フロント街はもうすぐデモ隊が来るとの事で、人影がない。
移動ブッカーの「本」は、昔の時代の麻薬のように、人類の感覚を打ち震わす。
心は、そのシーンにトンデ行ってしまうのだ。
移動ブッカーのトロリーは、その紳士の前に飛びだす。
「だんな、いい本がありますぜ、ネイサンの新作です。通常の本屋
より安くて、刺激ベルト付きにしときます。この刺激ベルトを頭に
つけるとネイサンの本がよく体験できますぜ」
「ネイサンの新作だって、タイトルは何だ」
「「タンホイザー・ゲイト」という本です。ほらほら、タンホイザー=ゲイトって、だんな御存じでしょう、ネイサンが行って還ってきた所でさあ」
トロリーは、その紳士の様子がのんだかおかしいのに気づく。
「だんな、まさか宇宙省のエージェントじゃないでしょうね」
「残念ながら、宇宙省のものだ」
「ま、まって下さいよ。これは冗談、冗談ですよ。許して下さいよ」
「君ね、もうこんな移動ブッカー商売はやめろよ」
「わ、わかりましたよ。持っている本はすべて、ほらこの通り、捨
てます」
トロリーは、本を道ばたに投げすてた。後ずさりし、やがて後を向
いていちもく散にかけだした。
宇宙省長官ジェームズ=スターリングは、ためいきをつき、その
本をI冊ひろいあげた。本は、道路の水にぬれている。タイトルを
ながめる。
「タンホイザー=ゲイトか」
スターリングはひとりごちた。ページをめくってみる。最初の一行はこうだ。
「この宇宙の始まりに、木が存在した……」
ぐっと感覚に入ってくる。ふーう危ない危ない、、
本をながめるスターリングの耳に、向こうから来るデモ隊の声が
聞こえてくる。
「タンホイザー・ゲイトに我々の船を翔ばせろ」
「人類にハーモナイザーを開放しろ」
デモ隊のデジタル液晶のプラカードも、そう読みとれた。
スターリングは本をとし、道ばたにあった「危険物自動焼却」用の
ダストシュートに投げ込み、フロント街のデモ隊をさけ、宇宙省の建物
へ向かって歩き始めた。
■完071027改定版■
(1978年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
地球意志はその時ゼノウ将軍を端子としていた。
アゴルフォスはもう完全に過去に投下させている。
「あのうらみ、ここではらしてやる」アゴルフォスは手を動かし始
めた。
ケインもまた「地球意志」に動かされている。ゼノウになりきっ
ていた。
「アゴルフォス、また同じあやまちをくりかえすのか」
「だまれ、ゼノウ、サイキックの恨みを知れ」アゴルフォスは手を
振った。
「ぐわっ」
叫び声をあげたのはアゴルフォスの方だった。右手が吹
き飛んでいた。
「わからんのか、アゴルフォス、君の空気切りの技など私にもっか
える。君の空気切りはその一瞬、そこの空間に真空状態を作り出す
ことはわかっている」
「くそっ、アゴルフォスの最後の力を見ろ」
それでも、アゴルフォスは、血を吹き出しながら残りの左手を持ちあ
げていた。
「死ね、ゼノウ将軍」
アゴルフォスの眼は悲しみをたたえていた。
ケインは地面に倒れていた。巨大な空気の圧力が彼を地面にはい
つくばらせていたのだ。
が、アゴルフォスの首の部分が切れて飛びあがった。胴体から大
量の血が一度に吹き出し、あたりの大地を朱に染めた。
やがて、天ご空から吹き飛んだアゴルフォスの首がころがり落ちた。
ネイサンはその首を愛しげに胸にいだいた。
「くっアゴルフォス」
ネイサンは涙を流していた。そしてケインの
顔をにらみつける。
「「地球意志」、君は楽しいかね。君の通ったところには、血のに
おいがいつもするではないか。「地球意志」、お前は征服欲の権化
だよ。我々はハーモナイザーはそれを許せるわけがない。
君はマーガレットの一部となり、アンバサダー号に隠れ、頭脳部
位となり中央脳ににせの地球の位置のデータを与えた。それでアン
バサダー号は幽霊船となったのだ
「そう、私はマーガレットとしてアンバサダー号が地球帰還する
のを阻止し、君がふ化するのを防いでいた。
そして今は、君と、この世界樹を滅ぼすためにここラシュモアヘ
来たのだ」
「もう、話しあいの余地はないというわけだな」
「それは、君もわかっているだろう。タンホイザーゲイト以来、君
と戦っているのだから」
「ケインの体にいう。「地球意志」と離れろ、君もわかっているは
ずだ。君の体は地球意志のおかげで血にまみれていることがな。君
は反乱鎮圧特殊エージェントだった。古代の小説「ケイン号の叛乱」
からそのコードネームがとられたのだ」
ケインは憶い出していた。彼がいかに多くの宇宙軍を抹殺してき
たかを。そして反乱鎮圧特殊エージェントとして働いてきたかを。
「ケイン、幽離しろ」
ネイサンが叫んでいた。
その言葉の直後、一条の雷が、ケインの体を貫く。
ケインは大地に倒れた。
■
白髪の紳士が歩いてくる。
このフロント街をなりわいの場所にする
移動ブッカーのトロリーは、その服装から上客だと眼をつけた。
移動して本を売っているのだ。
さいわい、フロント街はもうすぐデモ隊が来るとの事で、人影がない。
移動ブッカーの「本」は、昔の時代の麻薬のように、人類の感覚を打ち震わす。
心は、そのシーンにトンデ行ってしまうのだ。
移動ブッカーのトロリーは、その紳士の前に飛びだす。
「だんな、いい本がありますぜ、ネイサンの新作です。通常の本屋
より安くて、刺激ベルト付きにしときます。この刺激ベルトを頭に
つけるとネイサンの本がよく体験できますぜ」
「ネイサンの新作だって、タイトルは何だ」
「「タンホイザー・ゲイト」という本です。ほらほら、タンホイザー=ゲイトって、だんな御存じでしょう、ネイサンが行って還ってきた所でさあ」
トロリーは、その紳士の様子がのんだかおかしいのに気づく。
「だんな、まさか宇宙省のエージェントじゃないでしょうね」
「残念ながら、宇宙省のものだ」
「ま、まって下さいよ。これは冗談、冗談ですよ。許して下さいよ」
「君ね、もうこんな移動ブッカー商売はやめろよ」
「わ、わかりましたよ。持っている本はすべて、ほらこの通り、捨
てます」
トロリーは、本を道ばたに投げすてた。後ずさりし、やがて後を向
いていちもく散にかけだした。
宇宙省長官ジェームズ=スターリングは、ためいきをつき、その
本をI冊ひろいあげた。本は、道路の水にぬれている。タイトルを
ながめる。
「タンホイザー=ゲイトか」
スターリングはひとりごちた。ページをめくってみる。最初の一行はこうだ。
「この宇宙の始まりに、木が存在した……」
ぐっと感覚に入ってくる。ふーう危ない危ない、、
本をながめるスターリングの耳に、向こうから来るデモ隊の声が
聞こえてくる。
「タンホイザー・ゲイトに我々の船を翔ばせろ」
「人類にハーモナイザーを開放しろ」
デモ隊のデジタル液晶のプラカードも、そう読みとれた。
スターリングは本をとし、道ばたにあった「危険物自動焼却」用の
ダストシュートに投げ込み、フロント街のデモ隊をさけ、宇宙省の建物
へ向かって歩き始めた。
■完071027改定版■