新人類戦記第一章(1980年作品)第11回
作 (1980年作品)飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
(アメリカとソビエトの冷戦時代の話です)
その空気はアメリカ軍残留秘密兵器であった、ベトナムクチニン村
の少女ジウの体から発しているオーラでもあった。
うすぼんややしたかすみのようだったが、かろうじて人の形をとっている。
そいつは竜に話しかけた。
その声はこの世のものとは思われず、異世界からの声のようだ
った。
そして東郷竜の耳に声は届いた。
「竜よ、わが同胞よ、人類を滅ぼせ。地球上
から汚れきった人類を滅ぼせ。我々、新人類
の理想郷をこの地球に現出させよ」
竜はかもわず銃をその物体に向かい言った。
「お前は何だ」
相手には弾丸は通じない。
「指導者だ。君達、新人類の指導者だ。
君達、人間から派生し、進化した新人類の指
導者なのだ。竜よ、私のいう事を聞け、ジウ
を助けろ。君達、新人類の仲間を一人でも大
切にしろ。仲間は数少いのだ。お前はジウと
共に世界をまわれ、自分達の仲間をみつけ、
集めよ。そして人類を完全に滅ぼせ。それは
君達の使命なのだ。
色々な試練が君達をおそうだろう。しかし
君とジウはそれに打ちかたねぱならぬ。そう
すれば私は完全な姿を君達の前にあらわすだ
ろう」
そいつは現われた時と同じに、突如消え去
った。
竜はジウを介抱した。
やがてジウは目を開く。総てを理解している目だった。
先刻のうつろな表情は消えていた。
竜は恐る恐る残留秘密兵器であった、パラサイココマンドの
生き残りジウに尋ねた。
「ジウ、君達の仲間は滅んではいなかったの
か」
「そうよ、竜、私達パラサイココマンドはアメリカ軍達に殺され
たふりをしていたのよ。その方が都合がよか
ったの」
「全員が生きているのか」
「そうよ。私達の世界を築くためよ。世界を
私達、新人類の手にするためよ。この世界を
人類の手にiかしてはおけな旨わ。竜、。わか
るでしょう。この世界はもうくきりかかった
果実なのよ。一度もぎとらねばならないわ」
「くそ、狂ってるぞ、貴様達は」
「狂っているですって、何をもってこの狂気
の世界の中で狂っていると言うことがでぎる
の。人類達は、自らを殺す効率的な方法や、
兵器を必死で開発しているのよ。私達はその
手助けをしようとしているだけよ」
「お前たち新人類達を殺してやる。お前を殺しておくべ
きだった」
「むだよ。私を殺しても、仲間が続くわ。そ
してあなたはもう私を、私達を殺すことはで
きないわ。すでに私達の仲間になったのです
もの。東郷竜、精神が段々、私達の心と同調してきて
いるはずよ」
「なにを……」
竜は銃を再びジウに向けた。
その瞬間、竜の心の中で何かが爆発したよ
うだった。
何かが音を立ててくずれ落ちていく。
竜は大地にのめり、苦しんだ。
頭が胸が無数の針でつきさされているようだ
った。
’
■数分後、竜は立ちあがり、ジウに言った。
新しい人間の表情だ。今までの東郷隆とは異なる。
「そうだな。ジウ、俺達新人類はこの世界を作りな
おさねばならない。さあ、新人類の仲間のところへい
こう」
■ とりあえず、二人はベトナムから脱出する
ことにした。二人は。ジャングルを数日かけて
つっきり。やがて川のほとりへ出た。この川
はメコン川の支流らしい。
小さな村落へ出た。竜は、びっくりする程
の金額でモーターつきのサンパン(はしけ)
を買いとうた。メコン川を下り南シナ海へ出
るつもりだった。
その村人は彼ら竜龍たちが南の方へ下っていくのを見届
けてから村の行政委員会事務所(役場に当る)
へこの事を報告に行った。
その係官はその村人からワイロを受けとり、この事をだまっている
ことを約束した。
それから彼は外に出て、小さな小屋にはいり、通信機をひっぱりだした。
村人がいった特徴は、連絡を受けていた通りだったので係官は
喜びながら、通信を送りだした。
ベトナムのホーチーミン市を経由して、報告は米国ペン
タゴンへ届いていた。
新人類戦記第一章(1980年作品)第11回
作 (1980年作品)飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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