源義経黄金伝説■第15回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
おなじころ、奈良東大寺。
焼け落ちた大仏の鋳造も終わり、これからは大仏殿の建築にとりかかろうとしている時である。
治承四年(1180)平重衡の手で東大寺をはじめ興福寺の伽藍が焼かれ大仏が焼けた折、京都の貴族はこの世の終わりと思ったものだが、、重源ちょうげんの一団、勧進聖の手で、東亜においての黄金国日本の象徴である東大寺大仏は、その姿を再びこの世に現している。
牛車が荷駄を載せ、大工、石工、彫師、諸業の人間が一時に奈良に集まり、人のうねりが起こっている。
その活気に囲まれ東大寺の仮屋で、この勧進事業の中心人物が、もう一人の若い僧と湯釜からでる湯気を囲んで話し合っている。
「どう動かれますでしょうか。西行さまは」、
若い僧が年老いた僧に尋ねる。
「西行殿が、東大寺にために、どれほどの勧進をしてくださるかという問いですかな、、」何か言外に言いたげな風情である。
「左様、、でございます」
若い僧は、この高名な僧の話し振りにヘキヘきする事もあるのだが、なんと言っても、当代「支度一番したくいちばん」の評判は
彼の目から見ても揺ぎ無いところだ。
このような難事業はやはりこの漢しかできまい。
「お手前は、まだまだ、蒼いですね、、」
「といいますと」
少しばかりの怒りが、若い僧の口ぶりに含まれている。
「西行殿は、あるお方の想いで動いておられます。人生の最後の花と咲かせるおつもりです」
「では、平泉の黄金は、大仏の屠金はどうなります、、いや、しかし、重源ちょうげんさまは、昔、西行さまの高野の勧進をお手伝いされたのでは、、」
若い僧は、答えに困惑している。
「蓮華乗院の事ですか。ふう。あれはあれ、これはこれです。我が東大寺の伊勢への 参拝の件で西行殿は 恩は返してくれているのですよ。はてさて、物事はどう転ぶか、ですな」
高野山の蓮華乗院の勧進を、西行が行っていた。
治承元年(1177)の事である。
西行の働きで、歴史始まって以来初めて、、仏教僧が、伊勢神宮に参拝している。
重源ちょうげんの一団である。
西行は、神祇信仰者であった。
本年文治二年(1186)であった。
「重源様は、西行様と高野山では長くお付き合いされたと聞き及びます」
「そうです、西行殿が、高野山麓の天野別所に、妻と子も住まわせておったこともしっておりますよ。また、西行殿の弟の佐藤仲清殿が佐藤家荘園の田仲庄の事で、高野山ともめておられた事も、よく存じあげております」
「さらに、」
重源は少し、言葉をにごす。
「相国殿(平清盛)との付きあいも、よく存じ上げていますよ」
西行の実家、佐藤家の荘園、田仲庄は、紀州紀ノ川北岸にあり,粉河寺と根来寺の中ほどにある。
「ああ、和田の泊(現在の神戸港)も重源様の支度でございましたな。そうか。
それで、東大寺の闇法師である重蔵殿を、、お供に」
「そうです。すべては、西行殿が平泉に這いてからです」
二人は、若い僧、栄西えいさいが中国・宋から持ち帰栽培した茶をたしなんでいる。
独特の香ばしい馥郁ふくいくたる香りが、二人をゆったりと包んでいる。
続く2016改訂
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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