源義経黄金伝説■第14回★
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
広野から見えるその山は、荒錆びた様子で噴煙をあげている。富士山である。
「おうおう、何か今の時代を表わしているような…」
一人の旅装の僧が、目の前の風景に嘆息をしている。心のうちから言葉が吹き出していた。その歌を書き留めている。詩想が頭の中を襲っている。
湧き上がる溢れんばかりの想い。僧は、もとは武士だったのか屈強な体つきである。
勢い立ち噴煙を上げているは富士の山。富士は活火山である。
『風になびく 富士のけぶりの空に 消えて行方も知らぬ 我が思いかな』
「我が老いの身、平泉まで持つかどうか。いや、持たせねばのう」
老人は、過去を思いやり、ひとりごちた。
豪奢な建物。金色に輝く社寺。
物珍しそうに見る若き日の自分の姿が思い起こされて来た。
あの仏教国の見事さよ。心が晴れ晴れするようであっ
た。みちのくの黄金都市、平泉のことである。
「平泉だ、平泉に着きさえすれば。藤原秀衡ひでひら殿に会える。それに、美しき仏教王国にも辿り着ける」
僧は、自らの計画をもう一度思い起こし、反芻し始めた。
平泉にある束稲山たばしねやま、その桜の花、花の嵐を思い起こしている。
青い空の所々が、薄紅色に染まったように見える。
その彩は、絢爛たる仏教絵巻そのものの平泉に似合っている。
それに比べると都市まちとしては鎌倉は武骨である。
「麗しき平泉か、、そうは思わぬか、な、重蔵じゅうぞう殿」言葉を後ろに投げている。
後ろの草茂みにいつの間にか、黒い影が人の形を採っている。
東大寺闇法師、重蔵(じゅうぞうである。
「西行さいぎょう様はこの風景を何度もご覧に」
「そうよなあ、、吾が佐藤家はこの坂東の地にねづいておるからな」
西行ー佐藤家は藤原北家、そして俵藤太をその祖先とする。平将門の乱を鎮めた藤原秀郷ひでさとである。
「重蔵殿、まだ後ろが気にかかられるか。はっつ、気にされるな。結縁衆けちえんしゅうの方々だ。ふう、鬼一法眼きいちほうがん殿が、良いというのに後詰めにつけてくだされた」
一息。
「さてさて、重蔵殿、鎌倉に入る前、いささか、準備が必要だ、御手伝いいただけるかな」
しっかりとした足取りで、西行は歩きはじめた。
続く2016改訂
Manga Agency山田企画事務所
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