日本人の日序章 第14回
作 (1980年作品)飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
■二〇五四年 五月 ラインハルトの別荘
ラインハルトはアルプス要塞から自分の別荘に戻っていた。ライ
ン(ルトはしばらくの日々、一人で考えていたのだが、やがて自室
ヘファーガソンを呼んだ。
「ファーガソン、一つプランがあるのだが」
「会長。どの様なプランでしょうか」
「まず、君に質問しよう。今まで我々ラドクリフ・コンツェルンが
構築し、宇宙空間に送り込んだ宇宙ステーションはいくつあるかね」
唐突な質問にファーガソンはとまどう。
「それは、無数といっていいかも知れませんが、三百くらいでしょ
うか」
ラインハルトは自分の前にあるラップトップ型通信ラインを開け.
モニターに表示してみる。
「見てみろ、ファーガソン、これが我々ラドクリフリコンツェルン
が宇宙空間に打ちあげたステーションの数だ。実際四二三個だ。その内
現在も稼動中なのは、三五一だ。ここからが重要な話だ。この内、
軍事用に転用できるのは二つある」
ここでラインハルトは息をついだ。
「先日のJVO会議の様に、Aプランでは、まだまだ生まぬるく、
世界各国の足なみがそろっていない。散発的な日本人グループの叛
乱も各地でおこっている」ラインハルトが告げる。
「おっしゃる通りです。なかなか占領軍になじまず、日本が滅亡し
た事実を理解しておりません」
「それでだ、宇宙ステーションの一つが故障する。制禦不能になる
のだ」
ラインハルトは顔をほころばせた。フ″Iガソンが続ける。
「そして、その宇宙ステーションでは軍事ミサイルを実験中だった
というわけですね」
「そのミサイルが偶然、日本本土を直撃するわけだ」
「各国も事故だとして、それを承認するわけですね。が、占領中の
軍隊はどうします」
「この際、いささかの犠牲はやむを得んだろう。その時機、占領軍
のトップクラスはハワイへでもバカンスへ行っていればいいじゃな
いか」
「わかりました。どこの国も不平は言わんでしょう」
「我々がJVOの活動に活を入れてやるわけだ。つまり自動的にB
プランヘシフトするのだ」
ラインハルトのみどり色の眼はキラキラ光っていた。
■二〇五四年 一〇月 INS情報ネットワークサービス アメリカ本社
メガネにデッ歯の男がモニターの中で叫んでいた。
「ブキャナンを出せ」
その大声はINSの本社ビルをゆるがす程の勢いがあった。
「あなたは」
恐る恐るモニター・オペレーターの一人がこの電波の侵入者に尋
ねていた。
「花田万頭だ、名のるまでもないだろう」
INSの本部コンピューターはクライアントの顔と声紋の分析を
行なっていた。
「少しお待ち下さい」
オペレーターは答える。
「いいか、ブキャナンがどこにいようと、一分以内に回線に出せ」
花田の顔には怒りがはっきりとあらわれている。
「おやおや、花田さん、大変お怒りの様ですが」
ようやく回線に出たブキャナンは花田の怒声を軽くあしらう。花
田は続ける。
「怒るのがあたりまえだ。我々の本部がJVOの奴らに攻撃を受け
た。あの場所を知らせたのは君達だろう。あの場所は、先日、君が
電波で割り込んだところなんだ。君達がその場所をJVOに知らせ
たに違いない」
「花田さん、それは濡れ衣というものですよ。JVOも多くのサテ
ライトを地球上空にあげている。地球上の通信回路から場所をつき
とめることなど可能なのですよ。彼らの情報収集能力を低く見ては
いけない。それに我々があなた方、亡命日本人の本部をかぎつけた
瞬間、あなた方は本部の場所を移動させたはずだ。それより花田さ
ん、ちょうどよい機会だ。それよりももっと大変なニュースがはい
っています。貴重な情報だ」
「何かね」
「それは、この回線が盗聴されている可能性がある。会ってお話し
しましょう」
彼らは暗号を使って会う場所を決定する。
日本人の日序章 第14回
作 (1980年作品)飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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