ドリーマー・夢結社第9回
(1987年)星群発表作品
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
「夢だと」
そう、正確にいうと、君の作りあげた無数の夢世界のひとつだ」
「俺は夢の中にいるのか」
「そうだ、君はクネコバースローギンの夢世界に投影されたドリーマーにすぎん」
「俺は俺自身ではないというのか」
「そうだ。今の君は君自身の一分身にすぎん。それも夢の中のな。さらに君は大きな世界、別世界の創
造者でもあるのだ。この夢世界はクネコバースプローギンの夢の一つなのだ」
「そういうお前は誰だ」
巨大なカプセルは急に消える。東京の夢の島の風景が戻ってきた。
「Kよ、君はまだ理解していないな」
仮面の男は言う。
「何をわかっていないと?」
「それじゃ、K、こ こはどこだ」
仮面の男は挑戦的に言う。
「東京、夢の島だ」
「それじゃ今日は何日だ」
「一九八七年九月一七日木曜日だ」
Kは。バスの中で見たスポーツ紙の日付を思い出しながら言う。
「くふっ」
仮面の男は笑いころげている。笑い声をたてている。
「君はまだそんな事、この周りの現実を現実だとを信じているのか」
「それじゃ、仮面の男よ、反対に聞く、ここはどこだ」
Kはやや怒りながら尋ねた。
「よーく見てみるんだ。K」
仮面の男は空を指さす。
その夢の島から見える東京の風景がゆらりと動く。
まるで雑誌のページをめくるように、東京の風景が端から消え去っていく。
やがて空一面の夜空。がそれは東京の夜空ではない。さらに地平線もない。
「夜か、一体ここは」
Kは急に不安を感じる。体が自分の体ではないような感覚。虚体感覚と呼んだらいいような奇妙な感
じがする。
Kの立っている所の他はすべて夜空。Kは下を向く。下も夜空だ。Kと仮面の男は虚空に立
っている。
「ここは君の星、地球だ」
「そんな事はわかっている。大地がないではないか」
Kは心細くなって叫んだ。
「まだわかっていない」
仮面の男は強気だ。
「君自身が地球の夢を見ているのだ」
自身たっぷりに言う。
「何を言っている」
Kは表情が見えない仮面の男の不思議な言葉にとまどっている。
(ドラッグ・ウオーの記憶がないのか。
その戦争を関与した本人が、しかたがない)
「Kよ、よーく私の顔を見てみろ」
仮面の男がゆっくりマスクをはずす。その下に隠された顔は。
「俺の顔だ」
Kは腰がくだける。
「ふふ、あたりまえだ。私は君なのだ。いや持て、少し違うな」
Kは驚きのあまり声も出てこない。同じ顔の男が言う。
「君自身の精神にある精神治癒機構の具現者が私だ」
「俺が地球の夢を見ている。それにお前が俺白身の精神治癒機構だと」
「そうだ。私は、君クネコバースプローギンが自分自身の精神のバランスを保つために作りあげた。いあばバランサー、自分自身への薬だ。さて、君自身の現実の姿をもう一度見せてやろう」
夜空の一部が消え、一つの物体が映し出される。先刻の巨大な生き物だ。
裸の男が子宮に包まれているように丸くなっている。その羊水は海の水だ。ま
わりを囲んでいた球形
のカプセルはやがて地球の姿に変わる。地球の球体にKの体は眠っている。
「君は地球の夢そのものだ。
そして今。君の強力な精神力で実在化された夢世界なのだ。
その夢世界を破壊するのが私なのだ。
君自身の精神を、夢世界の苦悩から助けるために、
君自身が作りだした夢世界の破壊者なのだよ、私は」
「そうなのか」
一瞬、Kはすべてを理解した。
あの日本の新宿のカプセルホテルの目覚めから、この東京の夢工場までのすべてが夢世界だったのか。
『俺は地球の夢を見ていて、旅行したことのある東京を再現し作り直していたのか』
かっておこったドリームドラッグ・ウォーの始原者の一人であるクネコバ・スプローギン大佐は
思った。
ドリーマーインヒズドリーム第9回
(1987年)星群発表作品
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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