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石の民「君は星星の船」第7回■宗教の街ジュリ。その石の壁に刻まれた「石の男」の心が、ジュリに住む祭司のアルク。その娘ミニヨンの心の底に入り、操ろうとしていた。

2021年11月29日 | 石の民「君は星星の船」(1989年)
鈴木純子作品集より
 
IT石の民「君は星星の船」■(1989年作品)石の民は、この機械神の統治する世界をいかにかえるのか? また石の民は何者なのか?
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石の民「君は星星の船」第7回■宗教の街ジュリ。その石の壁に刻まれた「石の男」の心が、ジュリに住む祭司のアルク。その娘ミニヨンの心の底に入り、操ろうとしていた。
 

石の民「君は星星の船」第7回

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

http://www.yamada-kikaku.com/

 

『私は石の男だ』

 驚きがミニヨンの心に走った。 

 

「えっ、石の男ですって、信じられない」

 

『事実、君に話し掛けているだろう。君はなんという名前なのだ』

 

「私はミニヨンよ」ミニヨンは思わず自分の名前を答えていた。なぜなんだろう。この気

持ちは。

 

『そうか、ミニヨンよ、私の心底にこい』

 

心底ですって、ばかなことはいわないで、何故、あなたの心底に。大体、石の男に心底な

んてあるのかしら。

 

 ここ樹里の人々は訓練すれば、他人の心底にいく事ができる。もぐりこんだ本人の心は

「分心」となり、その場所、「心底」にいる。その場所で、分心は本人と同じようにものを

見、言葉を発するのだ。しかし、その分心が、他人の心底にいっている間、分心の本体は

何も見えず。考えずその場所にいる。この体は幽体と呼ばれる。

 

『君はアルナににているな』

 

「アルナって」

『私の古い知り合いだ。君が私の心底にくるのがいやなら、私からいこう』

「何ですって」

 

 

 ■宗教の中心地樹里には、この「石の壁」と「石の男」を管理する祭司委員会が存在する。

祭司は代々世襲され、祭司職はこの樹里の里ではハイクラスを意味する。

 

 樹里の町中からも、巡礼たちの騒ぎを聞き付けて、多くの人々が走り出てきて、石の男

を見あげていた。

 

「たいへんなことになったなあ、アルク」

知り合いの、ガントが汗をふきふき話しかけてきた。ガントはあせっかきだ、

 

たぶん、店のほうから、騒ぎを聞き付けて駆けてきたのだろう。

 

ガントの姿をみれば、心配性のようにはみえない。

この里の者には珍しくまるまる太っている。

 

アルクと同じくらいの身長だ

が、体重は2倍はあるだろう。ほおひげとあごひげが、チュニックとよくマッチしていた。

 

「しかし、ガント。この事件で、樹里にくる人々が増えるとすれば、お前の店の収入があ

がるではないか」

 

 アルクはいやみをいった。ガントは妻のモリに巡礼向けのスーベニアショップをやらせ

ている。

 

 この店の売上が、たいした金額になると、アルクはきいていた。ガントのチュニックは

特別じたてといううわさだ。その生地は遠くの商工業都市ヌーンからとりよせているとも

いわれていた。

 

「我々では手がでない。マニさまに報告しょう」アルクが言った。

 

「そうだ。マニさまがどうするか決めてくださるだろう」ガントが言う。

 

「さあ帰るぞ。ミニヨン」

 が、ミニヨンは答えない。ミニヨンの様子がおかしい。彼女の目は「石の男」に向けら

れている。瞬きひとつしない。

 

「ミニヨン、どうした」ガントものぞきこむ。 

 

■先刻から、ミニヨンの心に言葉がみちあふれていた。

 

ミニヨンの分心は石の男の心底に呼び寄せられていた。こんな体験はミニ

ヨンにとって初めてだった。どうしていいのかわからない。

 

『助けて、おとうさん』ミニヨンは心の中でさけんでいた。石の男の分心がミニヨンの心

底に侵入していた。

 

『さてミニヨン。私の話を聞け。

私はずーっと昔から、涙をながしていたのだ。私は世

界を憂えている。私の話をきけば、君も涙を流すはずだ。なにしろ、君はアルナに似てい

るのだからな』

 

 アルクはミニヨンが、涙を流しはじめているのにきずく。

 

「ミニヨン、どうしたんだ」アルクの声はミニヨンの心まではとどかない。

 

ミニヨンの目は石の男に釘ずけになっている。

 

アルクはまさかとおもう。まさか、石の男がめざめたのか、そんなことはありえない。が、涙が流れているとすれば、石の男の感情が蘇ったのかもしれない。

 

「いかん、もしかしたら、石の男がミニヨンをとらえたのかもしれない」

アルクは叫んでいた。

 

「そ、そんなバカな」ガントが汗をふきだしていた。

 

 アルクの分心は、ミニヨンの心の中に沈みこむ。ミニヨンの心理バリアーが働いていな

い。人の分心が入り込む時のあの痛みに似た感覚がないのだ。アルクの分心はずぼっとミ

ニヨンの心に入っていった。心の中はどんよりしていた。

 

 アルクは、ミニヨンが子供のころ、心理バリアーの教育、練習のため、ミニヨンの心に

はいったことがあるのだが、空色だった。その空色がこんな色に。いったいなにが。ミニ

ヨンの中に、だれかの分心がいた。

 

「なんということだ。私の娘だぞ」アルクは、叫んだ。

 

石の民第7回

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

http://www.yamada-kikaku.com/



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