イメージイラストは、THESEIJI今西精二先生の作品です。
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腐敗惑星のアリスー第5回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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■監視ステーションA235、通称「フライトデッキ」の中には、連邦軍宇宙監視機構の監視員が勤務についている。
彼ら監視員の役割はこの惑星、腐敗惑星から、妙な生物が生まれ出てこないのかをチェックすることだった。
この惑星に呼びおこされ、ひきこまれてしまう宇宙船には何の興味もなかった。
彼らを助けようともしながった。
その行為が、この星の生命行動だとしたらそれはそれでしかたがない。
誰にも星の生命活動を止める必要や、権利はないのだから。
ただ問題なのは、この惑星の腐肉の内から発生してくる新生物が他の惑星や宇宙に悪影
響を及ぼすかどうかなのだ。
フライトデッキのウォッチマンは、「腐敗の風族」の存在には気づいていた。が、彼らのフラ
イトデッキは風の存在層のはるか上方にあり、干渉しょうとは想わなかった。
「ああっ、また堕ちていく」
連邦軍観測員ミラー伍長がコントロールルームにあるモニターを見ながらつぶやいた。
「今度はどこの船だ、ミラー伍長」先任士官ラフラタ中尉が尋ねる。
「どうやら、ケンタウリ星のカーゴシップの様ですな。船籍α315-620。視認しました」
「OK、ミラー伍長。データはインプットした」
通常業務だ。彼らには何の感情もなかった。
ミラーと呼ばれた男、通称、ダーティ=ミラー。階級は伍長。
ここに勤務して3年になる。
彼の上官はラフラタ。階級は中尉。勤務歴10年。
しかし、ミラー伍長は、この山羊顔のラフラタ中尉のまなざしがずっと気になっていた。何か異
常だった。それに、なぜ、このフライトデッキに10年もいる、通例デッキマンの任期ロー
テーションは5年が限度だった。
この腐敗惑星は、何らかの基準で、宇宙の船を呼び集めて落下させていた。どんな基準
なのかわからない。
宇宙のローレライ。 生物を呼び集める星。
呼び集められた生物は腐肉となっていた。
■フライトデッキのコントロールセンターに男が急に出現していた。
ラフラタ中尉がきづく。
「お前はだれだ」
「私を、、私をこの星に投下しろ」
男は絶叫していた。黒い服をきた、これといって特徴のない男だった。
「どこから、出現した」銃を構えてミラー伍長が叫んでいた。
「私か?誰でもいい。この 監視ステーションのポッド投下装置を使わせろ」
探査ポッドは簡単に投下できる。この 監視ステーションコントロールセンターにあるキーボードを一押し。
「お前気でもちがったか。この星がどんな惑星かしっているのか」
「腐敗惑星だぞ」
ミラー伍長は侵入者に言う。
「わかっているさ、なにしろ、自分の故郷の星だからな」
侵入者は無表情に答える。
「故郷だと、お前はここの棲息生物か、そんなこと不可能だ。考えられん」
「そんなことがあり得るのか」
「私は故郷へもどりたいのだ」
男は何度もつぶやく。
忽然と、男の姿が消える。
ミラーはモニターをみてきずく
「いかん、 監視ステーションポッドがひとつ降下態勢に入っている」
「はやく、降下装置を解除しろ」ラフラタ中尉が叫ぶ。が、制止が効かない。
「だめです。制御レバーが動きません」
「くそっ、腐敗惑星の雲海のしたに落ちて行くぞ」
「落下光点が消滅しました。あやつは一体」
「わからん、ミラー伍長、連邦軍・監視機構の本部へ
連絡しろ。生物が発生するかもしれんな。疑似生命がな」
ラフラタ中尉はミラー伍長に言った。
「あやつは「ドリフィングゲート」を易々と通過したのだな」
ラフラタ中尉はミラー伍長に言うでもなくつぶやいていた。
「ドリフィングゲート」とは、侵入者に対する防御システムである。
星に呼び寄せられるのではなく、宇宙船の残骸を盗むために侵入してくる宇宙海賊を防ぐ為のシステムだ。確認されない侵入者に対して光子ミサイルが次々と発射される。
「あやつは、ひょっとして「死せる魂」かもしれんな」
ラフラタ中尉は考えぶかげにいった。
「死せる魂ですって、それは一体」
「死せる魂とは、生物でも、機械でもない。意識体、あるいは霊体である」
ミラー伍長は上部機構への連絡と聞いてほくそ笑んでいた。
『これはチャンスかもしれん。時がきたのだ』
なぜ、彼がこの単調なフライトデッキを任務地と希望したのか。
それは連邦軍宇宙監視機構の監視員・監視ステーションA235・勤務、ミラー伍長の過去に、その訳があった。
(続く)20210903改定
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
アリス・イン・腐敗惑星ー寂寥王の遺産ー
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