ロボサムライ駆ける■第53回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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■第七章 血闘場(2)
「この古代の神殿祭壇の上が勝負どころぞ」
徳川公国、侍ロボット早乙女主水は叫んでいた。
バイオコプターが着地し、ロセンデール卿が神殿祭壇にゆっくりと華麗に降りる。
「舞台にとって不足なしですねえ。早乙女くん、素晴らしい死に場所ですよ。幸運あれ。わたしはこのゲルマンの剣で戦います。我が神ゲルマンに祝福あれ」
ロセンデール卿の顔も晴れ舞台での戦いであり、上気している。
「他のかたがたは戦いはおやめなさい。我々をごらんあれ。主水君とわたしロセンデールの決闘ですべてが決します」
ロセンデール卿の青い目がキラリと光る。
大空洞の外から、急に稲光がひらめく。ガーンという言葉が後から響いて来た。
「主水君、貴公をこの刀のさびにしてくれましょうね。それはそれはとても名誉なことですよ。主水君」
ロセンデール卿はゲルマンの誇りを胸に、戦いに望んでいる。
電磁サーベル、ゲルマンの剣を抜き放つ。
「では、まいりましょうか、主水君」
再び、稲光がひらめく。光が回りに満ちた。
剣からは、またクサナギの剣とはことなる威力がある。
「この戦い、望むところ。クサナギの剣の力、お見せする」
主水も、剣を抜く。ぴしーんと広場に霊気が放たれた。
「だ、旦那は大丈夫ですかね、ねえさん」
鉄は、びびって隣にいるマリアに尋ねる。マリアは普通に戻っていた。
「私にだってわかるものですか」
ロセンデール卿はマリアの方を見てにこりとする。
「主水君、君が倒れれば、レイモン殿もマリアくんも刀のさびにしてあげましょう。心して打ちかかっていらっしゃい。私は、我が聖騎士団の者ほど、腕は甘くはありませんよ」
サーベルがビュウと唸った。
ロセンデール卿は、ヨーロッパの剣技大会でもトップレベルの腕だといわれている。
サーベルは突きが基本といわれているが、ロセンデール卿の技は単調ではない。なぎ、払うもテクニック中に含まれている。
おまけに手にするは、ゲルマンの剣。
古来より伝わる名剣。
神聖ゲルマン帝国の守り神である。
戦いは思わぬ方向に進んでいる。
主水は防御の構えに入っている。ロセンデール卿が攻勢なのだ。
レイモンにしても、マリアにしても気が気ではない。
「えーい、主水ったら、肝心なときに剣技がさえないのですから、だらしがないですわねえ、どうしたのですか」
味方のマリアがいらだち、罵声が飛んでいた。
「うるさい、マリア。サーベルとの戦いに対しては、お前ほどではないんだ」
そういった主水の頭がグラリと揺れる。
視覚装置がおかしくなった。
体のバランスが取れない。
「ウ、いかん…」
どうしたことか、主水の持病が肝心なときに出てしまった。
「いかん、この大切な時に」
足毛布博士が額に手をあてる。
主水の様子に足毛布博士が気付く。
「主水の様子いかがいたしました」
徳川公廣が尋ねる。
「例の病気がでよった」
「えっ、こんなときに……」
徳川公が唸る。
主水に、意識の空白が襲ってくる。
「ふふつ、どうしました、どうした、主水君、私の剣技に恐れおののきましたか?」
ロセンデール卿がニヤリと笑っている。
「私の腕に恐れで、体が動けなくなりましたか。弱い旗本ロボサムライですね。徳川公」
主水はふらふらし、ゆっくりと右腕が止まってしまう。
意識がフェイドアウト。
その姿のままで、主水はぎこちなくバッタリと神殿の床に倒れた。
が、クサナギの剣は、手に握られたままである。
「ほほっ、本当に口ほどにもない人ですね。主水君。見損ないましたよ」
「主水、危ないわ」
後ろからマリアがすくっと立って、自分の愛刀サーベル「ジャンヌ」を手にしていた。
通常は、愛刀サーベル「ジャンヌ」は縮小化しマリアの背中に格納されている。いざという時に「ジャンヌ」は出現する。
「いい、ロセンデール卿。ヨーロッパでの恨みを、この日本で晴らします」
マリアの顔はキッと厳しくなっている。
「おやおや、麗人マリア君。美しい愛の世界の姿ですねえ。フクシュウシン?! ふふっ、が、所詮、貴君は女ロボットです。現在のヨーロッパチャンピオンの私を倒せるとお思いですか。傲慢の極みですね。
ふふっ、おまけにこれは、ゲルマンの剣ですよ。おわかりですか? ねえ、麗人マリア君」
「それは、勝負してみてからいってほしいですわね。ロセンデール卿」
ロセンデール卿はあることに気付く。
「それは、、、そうだ、マリア君、私の目をよく見てごらんなさい」
ロセンデール卿が声高かに叫んでいた。悪魔の表情である。
「いかん、マリア。ロセンデールの目を見るな」
主水はロセンデールの狙いに気付く。
ころがり、のたうつ主水は、マリアに叫んでいるつもりだ。
が、いかんせん、その声は今マリアの耳には届いていない。
「まずいのう。マリアの別の人格が浮上するかもしれん」
戦いの様子を見ていた徳川公がポツリとつぶやいた。
そう、マリアは別人になりつつあるのだ。
観戦している人々から、どよめきが起こる。
「別の人格ですと」
今度は足毛布博士が尋ねる。
「そうなのです。マリア=リキュール=リヒテンシュタインは二つの心を持つロボットなのです。
もう一つの心はリキュール。マリアの肉体にあるもう一人の人格」
徳川公はボソボソとしゃべる。
「こんな戦いの時に…」
ロセンデール卿の剣が、あっという間にジャンヌの剣をたたきわり、続いてマリアの胸を貫く。
マリアは「うっ」
と叫ぶ。
「マ・リ・ア」
主水も叫んでいる。
ロセンデールは、ゲルマンの剣を、瞬間にマリアから抜き取る。
どっと祭壇上に倒れるマリア。
剣はマリアの体の中枢をついていた。
「ふふん、マリア君も口ほどにもありませんねえ。手応えがありませんねえ。折角の、こんな晴れ舞台なのにねえ」
ロセンデール卿はゲルマンの剣をビュウと振った。
(続く)20210705改訂
■ロボサムライ駆ける■第七章 血闘場(2)
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