インザダスト第11回 (1986年)SF同人誌・星群発表作品
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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マザーコンピュータは美しい声で言った。すべての人民に好感を与える合成され
た女性の声だ。
『我が子シオンよ。この世界を作りあげたのは私なのですよ。私は創造主
なのです。この世界、さらにあなた方、人間も私のモノなのです。
機械やロボットと同じように人民ね。もしある芸術家が作りあげた作品
が失敗作であると罵ついたならば、その作品を壊すでしょうあ。しか
し私にはまだ良心というものがある。シオン、ねえ、
いいでしょう。あなた方と共に私マザーも滅びましょうよ』
「マザー、我々は確かにあなたによって作られた。しかし我々はす
でに自分の足で歩き始めている。あなたの所有物でも何でもないん
だ。私達は人間なんだ」私は叫んでいた。
『シオン、文明はいつか滅びるものです。この文明も間違った方向
へ進んでしまいました。私の責任です』
「私シオンは、あなたと共に滅びるつもりはありません」
『でもね、シオン、残念ながら、すべてを知ったあなたはこの部屋から出られません。
それはわかるでしょう』
シオンダッシュは次次とインターフェイスを壊していた。
「いかん、マザーはこの部屋へ病原体を注入しょうとしている」私か叫ぶより早く、爆発音かした。
「電源部との接続を切りました」シオンダッシュが言った。彼は
小型爆弾を仕掛けていたのだ。
「当分、マザーも動けまい。マザー、さようなら」私は何度もマザ
ーの方を振り返った。
ロボット武装兵が待ちかまえていた。
私はベンダントとレイ=ガンを使い、囲みを突破する。
最高幹部会ビルの全電源もショートしていた。シオンダッシュは手落ちがなかった。
シオンダッシュの案内で、妻やサラや私シオンのシンパ達が閉じ込められている部屋を開
放した。
高級市民最高幹部会ピルの中は混乱の極にあり、暗闇の中で私達は衛兵をなぎ
倒し、レイ=ガンで扉を破壊し、外へ出た。ホーバークラフトを奪う。
妻を抱きしめながら、ピラミッドヘ向かった。
「さあ、下の世界に急がなければ」
「え、どういう事」サラはまだ事情がつかめずとまどっている。
「この上の世界は誠ぼされる。マザーの手でね」
ピラミッドまで、誰も我々を襲ってこなかった。マザーの混乱が
原因で全ンステムも混乱に陥っている。私は仲間と妻にこれまでの
話をした。
ようやく辿り着いたピラミノドの前で、シオンダッシュは私に
言った。
「それでは、私は自らの役目を果たします。シオン、下の世界をい
い社会にして下さい」
この私のDNAから生まれた男、最高幹部会が私を牽制するために
作った男は、一つの新しい世界の誕生のために自らを犠牲にしよ
としていた。私はZ88と刻まれたペンダントを彼に渡す。
「ありがとう、シオンダッシュ、元気で」
「えっ、何です」
私は言葉がつげなかった。
「いや、いい、行ってくれ、頼む」
私にはそれしか言えなかった。妻のサラは泣いている。
シオンダッシュの体を、実験ラボで発見したのは生物科学研究所員のサラだった。
彼女は彼の成長期の学習テープをすりかえた。彼は私の思考に同調
していたのだ。下へ派遣される前から。
シオンダッシュは一人、ホーバークラフトを動かし去っていっ
た。この世界とマザーを滅ぼす陽子爆弾は私のペンダントの中に仕
掛けられていたのだ。それを彼は持っている。
私のためにすべての問題を解決してくれる私の分身。
「さあ、皆、行くんだ」
私は人々をうながした。ピラミタドのゲートをくぐり、ダスト=
シュートの中へと。
人間は、いつか、その糾から巣立たねば忿らない。
例え、文明という保護箱から放り出されようとも。
■数カ月かすぎている。
あの時、上の世界は閃光が総てを被いつく
した。今はもうクレーターの世界となっている。ピラミッドだけが
残っているようだった。
男は下の世界を新しい世へ変貌させようと努力した。がマザー
は彼女の死の直前に、最後の復讐を男たちに果した。
病原体を乗せたミサイルを数機、下の世界へ発射したのだ。
男達にそれを防ぐ手立てはなかった。
下の世界でミサイルは細菌をばらまいた。
一人、二人と、この世界で男の仲間は疫病にやられ、死んでいっ
た。
マザーは、男たちを、自分の創造物をわざと、下の世界へ逃し、安心させた。
しかし、彼女は執念で我々を滅ぼした。我々がマザーの裏切り者であると
いう認識を。後悔をもたせて緩やかな死にいたる時間を作ったのだ。
反省する緩慢な時間をあたえた。
そして最後に、男の妻サラが死んだ時、男は最後の涙を流した。男は今、
妻の墓の前にいた。妻や仲間の墓は、ここ緑なす小高い岡の上にあった。
下の世界にあった他の農場の男達もすべて滅んでいた。男はこの
下の世界でもう一人ぼっちだった。
が、男はあのシオンダッシュが行々っていた作業を引き継いで
いた。原住民達はあの疫病に感染しない。
彼らの頭脳を進化させていた。完全な設備が洞窟内に残されていた。
彼らは男達に代り、新しい文明をこの下の世界で発展させるであろう。
今や男はこの下の世界の創造主であった。
そして、男も皆の跡を追い、なくなるだろう。
墓の前で思い出にふける男の後に原住民が一人、そっと近づいて
いた。彼は気をつかっているのだ。原住民達は言語を持ち、すでに
男と話かできるようになっていた。
男はしかし、自らがこの世界では異邦人にすぎない事に気づいて
いた。所詮この星に男は同化できないのだ。
男は彼に気がついた。そして男はある事を思いつき、尋ねた。男
は滅んでしまった上の世界を指さした。夕闇が近づいている。
「君達は、あの星を、何と呼んでいるんだ」
原住民は慎しんで答える。
「神よ。我々は、あの星を月と呼んでいます」
「そう、月か」
男の体と心は地球の大地に向かい倒れていった。
(完)
インザダスト第11回 (1986年)SF同人誌・星群発表作品
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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