SF小説■石の民■(1989年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
第2章 石の男
男は石の壁で眠りについていた。いつから眠りについているのか。
それはこの場所「樹里」の人々もしらなかった。
男はこの石の壁にうちつけられたようにみえた。
「石の壁」はこの町樹里をとりかこんでいた。
いやむしろ、この街、樹里がこの岩場をくりぬいた中にあったといっていいだろう。樹里の人々はこの岩場を守るべく生きている人々であ
った。
「石の壁」は高さ20Mでこの樹里をとりかこんでいた。
まるで、「石の壁」が樹里の城壁の様だった。
長さは1KMもあるだろう。
この「石の壁」を構成する成分は、この星のものではなかった。壁の表面
には、なにやら文字の様な模様が刻み込まれていた。
がこの文字はいまだ解読されていなかった。石はなめらかな肌色をしていた。
この岩場はこの星トゥーンの中心にあり、宇宙の各地から、この「石の壁」を目指して
来る巡礼団がくりだされていた。
トゥーン星はキルハツ星系の第3惑星である。
「石の男」は総ての人々の救いの象徴であった。
石の男はこの壁のちょうど中心部の地上15Mの位置にあり、
身長2M。顔ははっきりみえない。
時間が、この男の顔を削り落としたかのようだった。
この男の真下の地面に神殿が設けられていた。 このトゥーン星
のマルツ平原では、この石の壁が巨大な存在であった。
樹里のまわり100KMには他の村落はなかった。
樹里はトゥーン星でも外の世界からきりはなされたひとつの世界なのだ。
トゥーン星は農耕を中心とする産業形態を持っていた。
多くの人々がこの壁を訪れたが、目的は「石の男」だった。
樹里はいわば、この男に対する宗教の霊場であった。
石の民第5回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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