ドリーマー・夢結社第7回
(1987年)星群発表作品
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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Kの脳波を見ていた自白機械の解析士も叫んでいた。
「このKの脳波は何だ。読みとれない。自白機械のキャパシティをこえる。オーバーランする」
『分析不可能』
自白機械のモニターにそう映る。
ブザーが鳴り始める。
警告だ。
機械の能力をはるかに越えた情報量が、Kの頭に積め込まれているのだ。
Kの体が光り輝いている。
それはKが自白機械のエネルギーを吸いあげた様にもみえる。
Kの体をおさえていた金属リングが吹き飛ぶ。
Kは起きあがる。体のあちこちにあるコードをひきちぎる。
自白機械がオーバーランしたために、Kの意識は少しずつ目ざめてゆく。
「そうか、俺はここ夢工場の人形、ドリームドールに会いに来たのだ」
Kは独りごちた。
同時に自白機械のアームをへし折っている。
夢工場の工場長は、自慢の自白機械がつぶされるのを見て、呆然としている。
気をとりなおして命令する。
「奴をとめろ。自白機械をこわさしてはならん」
夢工場のユニフォーム姿の男達が手に電撃棒をもちKに打ちかかってくる。
体にふれた瞬間、放電される代物だ。
がKは、一万ボルトの電撃にはびくともしない。
まるで別世界の生き物の様にそれを受けつけないのだ。
Kは警備員達の攻撃をものともせず移動する。人形製造エリアにはいっていく。
そこでは、子供達に夢世界を与えるドリーム・ドールがオートメーションで作られている。
ベルトコンベアーで流れてきた人形のひとつをKはつかみあげる。
その人形の眼をじっと見る。その人形がかすかにうなずしたようだ。
ドリーム・ドールの体には、
子供たちの脳波を感受する部分と、子供達の想像力を増幅させる部分は
あるが、自ら動く装置はない。
しかし、人形が動き出した。
そればかりか、最初にKに見いられた人形が、他の人形に命令を下している
のだ。
さらに自ら別の梱包を破って、人形が飛び出してくる。
ドリーム・ドールは外見は高さ30一のフランス人形のようだ。
そのフランス人形で夢工場の生産ラインのフロアは一杯だ。
人形が警備員達の方へむかっていく。
ドリーム・ドールの叛乱である。
Kは人形ドリーム・ドールから下のフロアの入口を教えてもらう。
人形の反撃をかいくぐって襲ってくる警備員を排徐しながら、
Kは、夢工場の最下層、シークレットゾーンへと降りていく。
そのフロアにはレザー・バリヤーがはられている。
しかし、Kの体は、まるで空気の様に。そのバリヤーをすりぬ
ける。
そのドアは電子ロック。
おまけに警備員もここでは電子銃を装備し、Kをねらう。発射した。
が、彼らの電子銃にもKは感応しない。
Kはドアのノブに右手をおく。
何事もなくドアが開いた。入ると再び閉まる。
その場所は子宮を思わせた。
透明のカプセルが奥の方まで並んでいる。
カプセルは水溶液で満たされ、人間が浮かんでいる。
彼らは胎児の様に眠っている。
各々のカプセルの下には体温表示があり、彼らが低温で眠っていることを示
している。
Kは透明カプセルのひとつに近づく。
突然。工場長の声が響いてくる。どこかにスピーカーが隠されているらしい。
「やめろ、ドリーム・マスター達にさわるな」
マスターだと、どこかで聞いた事がある。
そう、チバーチバポートタワーでだ。ドリーマーハンターとか名のった
連中が、マスターの居場所を言えといっていたな。
こんな近くにあるじゃないか。Kはぼんやりと考えて
いた。工場長の声が再び響いてくる。
「少しでも、そのカプセルにさわれば、お前の仲間。ドリーマーが消滅する」
どうやら。このマスター達の夢で具現化された人間が、ドリーマーらしいとKは気づく。このカプセ
ルの下の装置が、マスター遠の力を増幅させているようだ。
Kの手はすでにカプセルの表面にふれていた。
どんな顔をしているのだ、彼らは。Kの手は急に熱を
発している。彼らの顔をはっきり見るために、Kは顔を近づける。手にも力が入る。
亀裂がカプセル表面に走る。
パリ。という音がする。水溶液がドッとあふれ出る。
Kは後ずさる。
カプセルが完全に崩れ、統いて、中で眠っていたドリームマスターの体が流れ出た。
「私はブラジルの農夫。トウモロコシ畑をたがやしている。空には鳥が飛んでいる。あれは……」
「あたしは14才の娼婦。ニューヨーク、ブル″クリンに住んでいるの……」
「我輩は東洋思想の数授である。この東京帝国大学における……」
「俺はマンモスの方にむかってやりを投げていた。危ない。奴がすごい勢いで……」
「わたくしの目の前では、わたくしの(ンカチを持った「ンガリー人の騎士がバレンシアの騎士と軟っ
て……」
「俺は、その落武者の首を切り落とそうとしていた……」
「私の描いた風景画は最高のものだわ。この絵を見たらアイリーンはなんて言うかしら……」
「その飛行体は、俺の戦闘艦の前を横ぎった。俺はパドルスーツのマニュピュレーターを……」
などなど、夢の想いでいっぱいだ
■彼らのあらゆる時代、あらゆる国の人々の夢世界の断片が、Kに感応する。
ここは夢みる人達ドリームマスターの倉庫なのだ。
この場所こそ本当の夢工場なのだ。
Kはずらりと並ぶドリームマスターのカプセルのひとつ、ひとつに手をふれていく。
まるで自分の子供をいつくしむように。
Kはなぜ自分がそんな事をするのかわからなかった。
自分の子を殺す。そんな
気もした。が他人に殺されるよりは自分で殺した方が。
なぜなんだ。この気持ちは。
わからない。
依然としてKは自分のまわりを大きな謎が包んでいることに気づく。
ドリームマスター達はカプセルが壊れると同時に水溶液と一緒に飛び出して床にころがる。
ようやく、工場の警備員が閉じられていたドアをぶちやぶって中へ突入して来た。
がこの有様を見て、悲鳴をあげる。
「くそっ、きさま、われわれのドリームマスターを!」
「きさま。ドリマー仲間のくせに。お前のドリームマスターもいるかもしれんのに」
警備員が倒れ始める。
彼らのドリームマスターが死んだのだ。
彼らもまたドリーマーだったのだ。彼らは消滅する。
ドリーマー・夢結社第7回
(1987年)星群発表作品
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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