●文覚が言葉を続ける。
「奥州仏教王国を滅ばしさん、その黄金を手に入れて、今度は
この鎌倉を仏教王国にいたしましょう。そうだ、我が鎌倉に
も大仏を建設いたしたしましょうぞ」●
源義経黄金伝説■第39回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
Manga Agency山田企画事務所
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■源頼朝は、武技場傍に設けられた仮屋敷に戻り、体を打ち振るわ
せ、怒りをあらわにしている。大江広元と、文覚の二人を前に
怒鳴っている。
「よいか、本日は自重しょう。が、奥州平泉を攻め滅ばした後
はかならづや、西行とその結縁衆を滅ぼすのだ。また、あの西行の
敷島道を完成させてはならぬ、我々武士の武威と、仏教にて、
この日本は支配されるべきだ」
「ははつ、かならずや」二人は唱和した。
「奥州平泉を滅ぼすは、我が大江家の悲願でもあります」
「大殿様、ワシは、その頼朝殿の考えに惚れたのです」
文覚が言葉を続ける。
「奥州仏教王国を滅ばしさん、その黄金を手に入れて、今度は
この鎌倉を仏教王国にいたしましょう。そうだ、我が鎌倉に
も大仏を建設いたしたしましょうぞ」
大江広元が言葉を継いだ。
「結縁衆のやつばらには、我々が恥をかかされておりまする。
たとえ、比叡山、高野山がどういおうと、奴らを、山の中に
おいこみましょうぞ。この街道筋や、湊泊まりに、居る場所
がないようにいたしましょう、その支配体制を頼朝殿のお力
でなしとげましょうぞ」
摂津、川西多田から鉱山貴族となり、金属資源の使い方を知
り尽くした軍事貴族、源氏は、当時最大の黄金郷、奥州平泉
を攻め滅ばさねばならなくなった。
それが昔年の、源氏の氏長者、頼朝の使
命だったのである。
別の仮小屋にて、北条家の面々が集まっている。
「婿殿は、、、我々板東政権にとって、必要なき時がくるかも
しれぬのう、政子殿、その事、政子殿も考えておられよ。
幸い、ワシは2人の子供に恵まれておるが、我らが源氏の方々を
頭にいただいて、いくが当然だが、その氏の長者がやく
にたたぬ時もありえよう」
北条時政が周りを見渡し言った。
北条政子は、顔を青ざめながら、ゆっくりと首肯した。
その頃、源頼朝は大江広元だけと話をしている。
「広元、私は、お主の使われせた、手先の者どもの事
は相知らぬぞ。おまえに任せるが、失敗した折りは、す
べて、お主が責任をとれ。お主がどう動こうと私は知
らぬこと。また、鎌倉の郎党の者もこの仕事に使うのはやめるのだ」
矢継ぎ早に、頼朝は命する。
「まさに、ここ、御矢山で、西行が盗賊に会うのは、ご神
前で誓った私が恥をかく。また、この事は、文覚にしれるではないぞ」。
しばらくして大江広元が、北条政子に呼ばれていた。
「ここは、ふたりだけの相談でございます。大江広元殿、
いかが考えられる、いや、これからの攻め手の事でございます」
大江広元は、頭を振り絞る。ここは、政子様、いや北条家に
自分の知略を見せておかねばなるまい。
「あるいは手として、源義経殿の命と、奥州黄金の支配権
とを天秤にかける方法もございましょうが」
「それは、坂東の方々、世の方々が納得すまい」
「武士は武士。ころはそれ、後白河法皇の勅宣という事
もございましょう。まして、藤原秀衡様が亡き後ならば
、義経殿の支配に、奥州の武士の方々がつき従うとお思
いですか。それはありますまい」
「それはなぜですか」
「奥州は、源氏の流した血で汚れておりますぞ。その象
徴である源氏の義経殿を、中心にすえるは、奥州武士の面々が
いかにも納得いたしますまい。
まして、義経殿の戦い方は、山丹の手法でございます。
我が国の武士の手法ではございません。奥州武士が納得いたしません。
ここは、京都を利用いたしましょう」
「そは如何なる方法にてか。大江殿」
「我が探索によれば、決して、奥州平泉の藤原家の兄弟仲は良く
はございません。鎌倉殿に、日本支配権を奪うまでは、
利用できるものはすべてお使いになられた方がよろしゅうございましょう。
京都、奥州、さらには、あの西行殿の手下どもも」
と告げて、大江広元は、政子の顔をじっくり見た。
「まして、義経殿は、平家を滅ぼした戦の上手でございま
すぞ。義経殿の和子がまだ生きておわす事を知るは、政
子殿と、この大江広元のみでございます」
政子はひやりとして、少しばかり話題を変えた。
「この日本に昔からおられる方々を、支配しやすくいた
しましょう。住む場所をきめすのです」
「良き考えです。また、板東には、京都から新しい仏教
を移住させ、武者殿のこころのささえになる教えを使いまし
ょうぞ。我々が許す、信じやすい形の仏教を広め、鎌倉を
佛都にするのです」
「源頼朝殿が征夷大将軍の位におつきになり、この国をおさめ
る事になっても、この国の民をお忘れなきようにお願い
いたします。
この国は武士だけによって動いているかわけではござ
いません。京都の貴族、我我、武士。文覚殿のような
法師殿が支配するわけでもない」
「さようです。国を富ましましょう。そして、相国平清
盛殿が押し広げた中国宋との貿易、また平泉がもつ山
丹の貿易も、てにいれましょうぞ。
さすれば、あのような、民草は恐れる必要はございます
まい。土地の支配権を、貴族や仏教からとりあげ、
土地は、我々、板東の者ためにいかしましょう。
それこそが、我ら坂東の武者が生き残る道でございます」
大江広元は、源家から北条家に乗り換えていた。
御矢山神社にある荷駄隊の馬留め場まで戻った西行は、
十蔵の顔を発見した。
早々と、結縁衆や武士の郎党は、この神社境内から姿を消しつつ
ある。田舎にある神社の静寂が、すでに戻りつつある。
西行は、十蔵に頭をさげながら、つぶやいた。
「ふふ、また、おかげで生き残ってしもうたか」
「お役目ご苦労でした」
「さてさて、十蔵どの、今度はな、静どのを助ける番が来たか」
と、西行は戦人である事を告げる。
東大寺闇法師、十蔵は西行のその言葉にやりと首肯した。
続く20210921改訂
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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