源義経黄金伝説■第31回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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第4章 一一八六年 足利の荘・御矢山
平泉の伽羅御所の前に、荷駄十数頭が準備されている。東大寺のために沙
金が積まれているのだ。多くの人足が立ち働いていてひといきれがする。
「西行どの、気をつけられませ。この奥大道の街道ぞいに盗賊もあらわれるかもしれません」
秀衡が西行に話している。
「何の、このような老人が、この沙金もっているとはおもいますまい」
「ともかく、用心には用心だ。あの吉次が、荷運びをことわるとはのう」
この時、西行は、この秀衡の別の荷運び策のために,吉次が断ったことを知らない。
「しかたありますまい。これも時勢でございましょう」
「後白河法皇にもよろしくお伝え下され。法皇さまの意図は、この秀衡は十分
にわかっておりますゆえに」
影都の件である。
「わかりました。秀衡さまもくれぐれもお体、大切になさいませ。今、天下の
趨勢は、秀衡さまが握っておられます。また、高館の君にもよろ
しくお伝え下さい」
高館の君とは、義経の事である。
伽羅御所側の丘に、荷駄隊とともにさって行く西行の姿を見る僧形の大男が
いて、ひとりごちた。
「義経さまの願いとあらば、しかたあるまい。白河の関までついていくとする
か」
単騎の男は、飛ぶ鳥のような勢いで、出発した荷駄隊の後をつけ始めた。
同じ折り、近くで物見をしている一団があった。
伊賀黒田の庄から西行をつけていた黒田悪党である。
この時期、神社仏閣に属する商人は、供御人、神人等として神社
や天皇家に属し日本国内の通行の自由を保証されている。黒田悪党は、東大寺
の通行証を手に入れている。大江広元の手配であった。
「よいか、西行らを待ち伏せるは、板東足利の荘、御矢山だ」
「平泉と板東の境にある御矢山か。あそこなら、願ったり、適ったりだな」
この頃、源頼朝は御家人の士気高揚を願い、関東地方にある足利の荘御矢山の祭を後援している。
御矢山の祭は、いわば、関東武士のオリンピックであり、御矢山には今で言
う競技場が作られている。鎌倉ご家人が自らの武芸の腕を誇り、また神に前で鎌倉殿にたいする忠誠を見せるのだ。
御矢山の中央に平坦な凹地があり、南北三七〇メートル、東西二七〇メート
ルの十段の階段状段丘が巡らされていた。この段丘でご家人たちが、他の武士
の武芸を堪能する。
平泉から板東に向かう奥大道をゆく西行一行の荷駄に。
矢文が、打ち立てられていた。
「何事だ」。
矢文の文面を西行がたしかめた。
「静を預かっている。代わりに、黄金三千金を差し出されよ。場所は足利、御矢
山。期日は七日後、正午。黒田悪党」
と矢文には、記されていた。
「む、静殿、この黒田悪党という奴らにつかまったのか、この手誰れは、頼朝の手のものか」
「鎌倉殿の手先とすればおかしくはありますまいか」
西行に十蔵が告げた。
「それに、西行様、その時は、足利の荘は、御神事ではございませんか」
「そうじゃ、御矢山の祭だ。こやつら、黒田悪党と名乗っておるが、その祭の
行き帰りをねらっていたかも知れない。が、」
西行が首をかしげている。
「いかがなされましたか」
「なぜ、わしが御矢山の祭へ行く事をしっておったかのか。やはり、頼朝殿か
これは、わしと頼朝殿しかしらぬ事ゆえ」
「これは、十蔵殿、手働きをしていただくかもしれないな。それに結縁衆の方
の手助けもな」
十蔵と西行には準備が必要であった。
続く2010改訂
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