石の民「君は星星の船」第9回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
■祭司アルクは中央に設けられた被告人席にすわらされていた。自らの運命の変転に驚いてい
た。なぜ、私が、それに娘ミニヨンが。
祭司の我が娘娘ミニヨンが消えたのがなぜ、私の罪だというのだ。
皆で助けてくれるのが本当ではないか。傍聴席に知り合いの商店主ガントがいうのに気がついた。ガントは、あいかわらず、真っ青だった。
「さてアルク祭司よ、お前は娘に心理バリアーを育てる訓練をさせなかったのか」判事がうむ
をいわせず、攻撃してくる。
「そのようなことはございません。私が自らの手で、幼い頃より、教育いたしました。そ
れほどたやすく心理バリアーをやぶれるはずはないのです」アルクは必死で抗弁する。
「が、事実、やぶられたではないか」判事はいう。
祭司アルクは答えようがなかった。ミニヨンの学校の友人マリネが証言していた。
「ミニヨンさんは容易に心理バリアーを開いていました」
マリネは下を見たままだった。アルクの方はけっしてみなかった。
とにかく不利な証拠ばかりが、仲間の祭司たちによってあつめられていた。
結果はわかりきっていた。
陪審員は次々とアルクを非難する。
「神聖なる我が世界の祖「石の男」に、祭司の娘が囚われるなど前代未聞だわ」
「アルク祭司、不浄人め、二度とこの樹里の里に足を踏みいれてはならん」
「娘ミニヨンの心をとられるとは、祭司の風上にもおけぬ」
祭司たちの非難の言葉が次々とアルクの頭上を飛び交う。
祭司長マニは、裁判長としてこの祭司会議をまとめて命令する。
「アルクよ、石の男よりミニヨンを助ける方策をみつけるまではこの里にもどることをゆるさん」マニの言葉には決然としたものがあった。
アルク祭司は抗弁する。
「マニ祭司長さま、手掛かりをおわたえください。石の男より我が娘ミニヨンを取り戻す方法を。私は、いや先祖代々このアルク家はこの里に奉仕こそすれ、汚れをあたえるようなことはしておりません。この私になぜ、このような不幸がおとずれたのでございましょう」
アルクは祭司長の前で叫んでいた。祭司長は無言だった。神殿が騒がしくなった、会場に罵声が飛ぶ。アルクは収容所に連れていかれる。
アルク祭司は両脇をささえる衛視にさからって、後ろに向かって叫ぶ。
「マニ祭司長さま。どうぞ、お教えを」
アルクは何度も叫んでいたが、人々は明日の儀式を待つざわめきに掻き消されていた。
■「アルクだぞ、アルクだぞ」
「アルクが来たぞ」見張りの男が大声で叫ぶ。
樹里のメインストリートに叫び声があふれ、期待に満ちた人々が集まり出していた。祭司アルクの追放儀式だった。
アルクは収容所から出される。アルクはこの樹里のメインストリートを無抵抗で歩いて
いかねばならない。後ろを振り向くこともしゃべることも許されていない。
道の両側に立ち並ぶ人々は、アルク祭司がちかずいてくると、アルクに向かって石を投げた。
人々は正装をしていた。聖なる石を不浄人アルクに投げる大切な儀式なのだ。道端の石や、
この日のために用意してきた石だった。石は聖なるもの、石の壁そのものだった。アルク祭司
はこの聖なる石をよけることはゆるされなかった。
不浄なる者アルク祭司が出て行くことによって、この樹里ジュリは聖なる場所に戻る。
美しい白いチュニックははぎとられ、代わりに一般市民の着る灰色のローブをきせられ
ていた。そのローブも飛来する石くれでしだいに汚れて行く。
石つぶてはアルクの顔といわず、手足といわず投げ付けられ、もはやアルク祭司は傷だらけ
だった。傷口からは血が滴り落ちている。
樹里のメンストリートを過ぎたアルク祭司の目の前にマルツ平原がひろがっていた。
空はどこまっでも晴れわたっていて、祭司アルクの心とは裏腹だった。
石の民第9回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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