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石の民「君は星星の船」第10回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikaku.com/
樹里のメンストリートを過ぎたアルクの目の前にマルツ平原がひろがっていた。
空はどこまっでも晴れわたっていて、アルクの心とは裏腹だった。
マルツ平原はまさに不毛の大地だった。
これからどうすればいいのか、追放された祭司アルクは絶望していた。
いまだ、石つぶてはアルクの顔といわず、手足といわず投げ付けられ、もはやアルクは傷だらけ
だ。傷口からは血が滴り落ちている。
突然そんなアルクの耳の上に小石がなげこまれた。
最後の石だった、しかしその石はするりとアルクの耳のなかにとどまる。
その小石が何かをしゃべった。
「アルク、アルク」どうやら小型の通信機らしい。
「まっすぐ進んで人々から見えない所までいけ。それからしゃべれ」
アルクは言われたとうり、1kmほど歩き潅木の中にしゃがんだ。
「あなたはいったい」
「しっ、アルク、だいぶ困っているようだな」答えようがないアルクであつた。
「これからどうすればよいかわからないとみえる」この考えは否定しようがない。
「そういうあなたは」わらをもすがる思いであった。
「よいか、アルク、私の助言にしたがうのだ」声はうむをいわさぬものだった。むろん、
アルクはしたがうつもりだった。他に方法がない今ならば。
「アルクよ考えようによれば、お前はえらばれたんかもしれん」
「選ばれたですと」この人は何をいっているんだ。しかし、ある種の
見方かもしれんとアルクは思った。
「この世界を変化させる種子が、お前かもしれん」
世界を変化させるだと。どういうことだろう。石の男が動き出すというのか、石の壁が壊れるとでもいうのか。この時、アルクの頭にある確信がおこった。
「あなたはひょっとして」
「だまれ、アルク、私がだれでもよい、今は問題ではない。いいか、アルクよ、お前はこ
の樹里をでたあと、聖砲をもつ者をさがすのだ」
「聖砲ですと」なんなのだ、聖砲とは。アルクはその言葉を聞いた事がなかった。
「そうだ、その聖砲がお前を助けてくれるはずだ」
「アルク、よく、聞け。この世界はひとつではない。多くの世界が存在するのだ」
「それは、トゥーン星以外の星ということですか」
「そうではない。この星の集まり、宇宙とは異なる宇宙があるのだ。お前はこの宇宙を飛
び出し、聖砲を探せ。お前の運命なのだ」
「星の世界を飛ぶ、どうしたら」
「心配するな。その儀式をいまから、教えよう」
アルクはマルツ平原に佇み、耳にひっかかった通信機の声を聞いている。日が沈み
かけ、赤い陽光がアルクの体を真っ赤に染め上げていた。
石の民第10回SF小説■石の民■(1989年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/