ドリーマー・夢結社第11回
(1987年)星群発表作品20210807改訂
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
ワルシャワ条約軍中尉リポフは半壊しているスプローギンの家の中に入る。
リポフ中尉はあっけにとられた。スプローギンの体を銃弾が突き抜けていた。
「驚いたかね、リポフ君、これはホログラムだよ。私の今の姿を見せてやろう」
■背後に明かりがつき、巨大なカプセルの中にスプローギンの体が横たわっていた。彼の眼は閉じられ
ている。
「ここはどこだ」
リポフは見知らぬ空間に立ち、叫んでいる。
「ワルシャワ地下大空洞の中だ。ワルシャワ市の地下にはりめぐらされた地下道を利用した大空洞だよ。さて、リポフ君、わざわざ君がここに来てもらったのはなぜだと思う」
リポフは言葉につまる。つまりスプローギンの家での集会というのはガセネタだったのか、私をおび
きよせるための。
「私が欲しかったのはリポフ中尉、君の持っている情報だ」
ホログラムの方のスプローギンがしゃべっている。
「何だと」
リポフ中尉リポフは少し考え、悲鳴をあげた。
「まさか、私の頭から……」
「そうだ、君の記憶から、ミサイル発射に必要なキーワードを読みとったのだよ」
「くそっ、俺を外へ出せ」
「無駄だ。ルビノ基地のミサイルは発射された。我々のコンピューターは、軍のミサイル発射制禦コン
ピューターに侵入した。もちろん、この際に君の知っていたパスワードが非常に有効だったのだ」
「どこだ、目標は」
「ソビエト連邦の首都モスクワだ」
「くそっ、なぜだ、なぜモスクワに」
「ソビエト連邦のモスクワの軍本部はきっと敵陣営、西側から発射されたミサイルだと思うだろう。自動的に、報復装置が働き、多くのミサイルが西側陣営の各地の目標に向かって発射される。もちろんその弾頭にはJP三五九が装填されている」
「何んてことだ」
リポフは両ひざをつき、頭をかかえた。
「あなたは世界を破壊してしまった」
「そうではない。リポフ君、考えてみたまえ、JP三五九は強力なドリーム創成ドラッグだ。個々人の幻想が具体化され実在の世界となるのだ。人々は自らの望む世界に住めるのだよ」
「あなたは狂っている」
「私が狂っているかどうか、もうすぐわかる」
「あなたを処刑する」
リポフ中尉は、コンソールの部分へ銃弾を撃ち込もうとそのカプセルの方へ走っていく。
「リポフ君、君はきっとこれからの世界が気にいるさ」
「何を言う、この犯罪者め」
トリッガーをリポフ中尉はひきしぼろうとした。
■その瞬間、世界は白熱した。
過去世界は消滅し。幻想夢世界が現出したのである。
西側、東側陣営も世界じゅうに幻想創出剤JP三五九を装填したミサイルが行きかったのだ。
この瞬間から各個人の「夢世界」が出現した。
過去世界のすべてのひとびとが、自らの夢世界に住んでいるのだ。
K=クネコバ・スプローギンも自らの夢世界に住んでいた。
今日の夢は、スプローギンが日本の大使館に武官として着任していた時の記憶がベースになっていた。
カプセルホテル。
渋谷。
夢工場というイベント。
チバーチバポートタワー。
楽しかりし日本の思い出。
それが渾然一体となって現出したのだ。
Kの夢世界はすなわち地球であった。たった一人が住む地球。
今、Kは静かに眠っている。心安んじられる状態なのだ。Kの心が乱れると、新たな夢世界が出現す
る。実在の世界として具体化される。その夢世界を処理していくのがKの。バランサー、Kの分身、仮面の男なのだ。
K=クネコバ・スプローギン
Kは、新たな世界を生み続けながら、カプセルの中で永い眠りに入っている。
なにしろ、Kはこの「Kの夢世界」の地球そのものなのだから。
■世界、いや夢世界は、個々人の夢世界を現出させた。
スプローギンが主人公の世界もあり、違う夢世界では、彼は英雄かもしれない。
幻想創出剤JP三五九は、個々人への影響が異なる。
あなたの見る夢世界、それは、、、
(終)
ドリーマー・夢結社第11回
(1987年)星群発表作品20210807改訂
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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