新人類戦記 第三章 聖域 第17回
作 (1980年作品)飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
(アメリカとソビエトの冷戦時代の話です)
■ビサゴス共和国 解放戦線 基地
「ソビエト軍の超能力者部隊だ。ビサゴス解放戦線の君達に貴重な贈り物を送る。用をしたまえ。第二兵舎の前だ」
ビサゴス解放戦線の兵士達は驚いた。内なる声が響いてのだ。
ベトナム人超能力者ルンの声である。
何もない空間に急に物体が出現したのだ。
それも。彼らが奪取を待ち望んでいた原爆3発である。
騒ぎに目ざめた男がいた。
男は牢獄の窓格子から外を見た。バウチである。彼はフラン
ス。ソルボンヌ大学から核物理学留学生のニエレレを連れて返る使命に失敗し、ここにとじこめられていた。ビサゴス秘密警察のエージャントである。
彼ら解放戦線の兵士達の話声からその物体が原爆だとわかった。
彼バウチは第二指令を果たさねばならない。
ビサゴス秘密警察長官ラギトから与えられた命令である。「原爆がもし、彼らの手に入った場合、留学生ニエレレを殺せ」という命令である。
バウチは。彼の靴の底に隠してあった口径の小さな長い針をとりだし、確かめた。
■ビサゴス共和国 首都ラギト 大統領官邸
ビサゴス空軍のイロコイスヘリコプターが、ジャバ川を探索していた。
ビサゴス空軍戦闘機が一度に五機も連絡がとだえたのだ。が捜索ヘリは思わぬひろい物をした。
フランス人のトルワイユという男である。話を聞き、ビサゴスレスキュー班がイデア号の残骸を捜索
したが原爆は発見されなかった。
この知らせは、時をおかず、ビサゴス共和国 首都ラギト、バリエテの岡の上にある大統領官邸へ届けられた。ビサゴス共和国大統領ラオメはその報告に、巨体をふるわせうなった。
。
「うう、何んたる、でくのごうばかりそろっておるんだ、我が軍には。原爆は不明。解放戦線
の手に渡ったと考えられるだと」
執務室の中をうろうろ歩き廻るラオメ大統領の方へ、秘密警察長官ラギドがカマキリを思わず
体で近づいていた。
「とりあえず、原爆の件は日本の翁へ電話されては」
「そうだ。そうしてみよう」
ラオメ大統領はすがるような気持で日本へ電話をいれた。
「翁、最悪事態だ。クリスチャンン号は沈没し原爆は解放戦線の手中だ」
日本のドン、山梨に住む翁の電話はしばらく沈黙したままであった。
やがて翁は静かに言った。
「ラオメ大統領、私は一つの安全装置をあの3発の原爆に施してあります。あの原爆を作動させるため
には一つのキーが必要なのです。一連の攻表を持つ男がいなければなりませんJ
「なに、それでは、あの原爆はあのままでは作勁しないのかね」
「さらに、その安全装置は原爆に密着させられていて、分解させることは不可能なのです」
ラオメは大きな吐息をする
「ひとまず、安心したぞ。翁」
それから、ラオメは空車長官からの連絡をしゃべった。
「翁、君が言った竜とジウとかいう二人の男女は、あの原爆とは関係がないようだ」
「といいますと」
「我が軍のコイン磯が男と女に乗っ取られたのだ、嘔空飛行を行なっているので、レーダ
ーで捕捉するのはむつかしいが、地上の観察者の話によると、どうやらアコンカグワ山ヘ
向かっているらしい」。
「アコンカグワ山」
「そこは我々、ビサゴス共和国の支配民族ヴ″リド族のタブー地域なのだ。そこで何かが起っているらしい。先日、国籍不明磯が隣国ガニタから飛来してきたのだがアコンカグワ山周辺で消滅したらしい。
もちろん、アコンカグワ山ヘ偵祭部隊を私は送り込んだのだが、まだ連絡はない」
「ラオメ大統領、わかりました。しかし、くれぐれも気をつけて下さい。それから、今、私の部下、香月はポート=モレズビーで孤軍大奮戦していると考えられます。どうか助力をお噸いします。すぐ大統領の元へいけるよう取りはからって下さい」
「わかった。この際だ。この原焙を奪還するために、大攻撃を行なうつもりだ。もちろん
翁の部下、香月を助けるために私の部下を送ろう」
「ありがとうございます。私からも香月に連絡をとります」
■日本、山梨県 翁の屋敷
日本のフイクサー、翁と呼ばれる老人は、ラオメ大統領との電話会話のあと、しばらくの間、考え込んでいたが、再び自宅の電話交換情報室を呼びだし、「アメリカへの秘密電話を頓む」とつぶ
やいた。
アメリカ、ラングレーCIA本部にその電話はつながっていた。
「長官、お元気ですか」
「翁、君も元気そうだね。ところで急に、何用かね」
「貴国アメリカの特殊部渫が、アフリカのビザゴス共和国で作戦中らしいと聞いたのですが」
「それより、日本政府の秘密部隊、東洋商事もはでな商売をピザゴスで行なっていると聞いたが」
「わかりました。単刀直入に申し上げましょう。もう今は腹の探り合いをやっている時間
はありません。我々の原爆が解放戦線の手に入ったのです。それに例の超能力者、新人類と名乗るジウと竜がビザゴス共和国のアコンカグワ山ヘ向かつています」
「何、解放戦線の手に原路が、もちろん、翁、何か完全処置はとってあるだろうね」
「それはもちろんです」
翁は、安全装置について語った。
「それゆえ、英領ポート・モレズビーにいる香月の安全をCIAの手で守っていただきたい」
「虫のいい話だね、翁」
「背に腹は変られない状態です。それに。このままでいけば、ビザゴス共和国は共産側の手にお
ちるでしょう」
「それは間違いない。残念だが、翁、我々のCIAボートモレズビー支部は全滅した」
「本当ですか」
「昨日の事だ。ソ通の超能力戦士部隊を知っているかね」
「ええ、貴国のカイザー部凛と相呼応する超能力特殊部隊だと聞いています」
「そいつらも、ビザゴスのアコンカグワ山ヘに向かっている」
「それでは、アコンカグワ山ヘ向かったのはやはり貴国アメリカのカイザー部隊だったのですね」
「ほう、ビザゴス、ラオメ大統領から聞いたのか」
「ええ、たった今」
「アコンカグワ山で確かに河かが起っているらしい」
「そこで、お破いです」
「何だね」
「これは払の惑ですが、アコンカグワ山に、我々の存在を越えたものがあるらしいです。
最終処置をアメリカ大統領にお禎いして下さい」
「何だと、我々アメリカのカイザー部隊もまき込むつもりか」
「恐らく、カイザー部隊は、全戚したのではないですか」
CIA長官は答えに窮した。確かに、カイザー部隊をビサゴスの隣国ガユタから移送した輸送機は消滅
した。それにカイザー部隊団長、デューク鳥井とも連絡がとれないのだ。
隣国ガニタには、カイザー第一師団が待機し、テレパソーを通じようとしているが、何
かがそれをはばんでいる。すでに数名かが死亡しているらしいとの予想があった。カイザ
ー部隊の生みの親、アメリカ軍カイザー少将が現地で指渾をとっている。
「最終処置か。わかった大統領に具申する事を考えておこう」
新人類戦記 第三章 聖域 第17回
作 (1980年作品)飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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