日本人の日序章 第9回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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二〇五二年 三月 中部ヨーロッパ 山岳地帯
ヨーロッパ中西部アルプス山嶺の中にその城はあった。巨大コン
ツェルンの
ラドクリフHグループの議長、ラインハルトの別荘であった。
「ラインハルト会長、ホットラインがはいっております」
くつろいでいる銀髪のラインハルトの前に腹心であるフ″Iガソ
ンがあらわれた。
「どこからかね」
「INS情報ネットワークサービスのブキャナン=オーガナイザーだと言
っております」
「どんな話か聞いたかね」
「それが、はっきりとはいわないのです。会長がてがけておられる
ピック・プロジェクトに関する事だと申しておりますが」
「あまり、話をしたくないが」
「話を聞かないと大変な事態をまねくとも申しておりますが」
「えい、しかたがあるまい」
ラインハルトはしぶしぶフォーンをとった。
壁にかかっているモニターの画像があらわれ、冷い青い眼をした
ブキャナンの顔が出現した。
「ラインハルト会長、初めまして、INS情報ネットワーク=サービスの
オーガナイザー・ブキャナンです。お目にかかれて光栄です」
「で、君が私に話したいという内容は何かね。この強引な連絡手段
は、いささか犯罪的なにおいがするね。このホットラインに入り
こめるはずがないのだ」
「それは会長、おたがいさまでしょう」
「いいかね、ブキャナン君とやら、君たちが何と呼ばれておるか、
知っているだろう。君らは情報マフィアだよ。本来は私と話しなど
できないどぶねずみなんだよ」
ブキャナンはラインハルトの侮蔑の言葉など、まったく意に関し
ていないようだ。
「じゃ、ラインハルト会長、あなた方のイエロープランはどうなん
です」
「何だって、もう一度言ってみろ」
「イエロープランですよ。それも今年、6月1日に発動するビッグ
プロジェクトだ」
「なぜ君たちがそれを」
「言ったでしょう。我々は情報ネットワークサービスです。この
地球上で我々の知りえない情報などありはしない」
ラインハルトはいささか、ブキャナンに対する、つっけんどんな
しゃべり方を改めていた。
「それで、イエロープランについてどこまで知っているというのか
ね。それに君たちの我々に対する要求はなんだね」
「最初の質問の答えはすべてです。次の質問に関しては、我々情報
ネットワーク=サービスをそのプロジェクトに加えていただきたい
わけです」
「君たち、アマリカの情報マフィアを我々のプロジェクトのメンバーに加えろ
だと。ブキャナン君、ふざけてもらってはこまる。我々、ラドクリ
フ企業体の構成メンバーは素姓正しいものばかりなのだよ。それに
比して、君たちは何だね。君達は他人の情報を盗みだして、それを
他人に売りこんだり、本人をおどかして金をまきあげるのが商売だ
ろう。商売変えでもしたいと言うのかね」
「いいえ、ラインハルトさん、我々は事業規模を拡大したいだけで
すよ。イエロープランは我々にとって願ってもないビジネスチャン
スなんです」
「君の言いたい事はそれだけかね。考えておこう。君のINSといかいうネットワー
クサービスの利用方法をね」
ラインハルトは怒りをこらえて、モニターをOFFにした。
「ファーガソン、なぜ、イエロープランが、彼ら、アメリカの情報マフィアに
もれたのだね」
「いえ、わかりません。彼らは各所の情報ラインに潜りこむのがう
まいといううわさです」
ラインハルトは大きなソファーにすわりかかり、頭をかかえてい
たが、一つの決心をしたようだった。
「ファーガソン、いいかね、ヒュルケナー博士を消せ」
「何ですって」
ファーガソンは驚きの表情を隠しきれない。
「いいかね、二度と同じ事をいわせるな。ヒュルケナー博士を抹殺し、博士の研
究施設を破壊しろ。むろん事故にみせかけるのだぞ」
「わかりました。マスター、あなたがそうおっしゃるならば」
ファーガソンは。抹殺組織「クンフー」の電話番号をインプット
し始めていた。
窓の外にはヨーロッパアルプスの山嶺に冷たい光を放つ氷河が見
えている。
日本人の日序章 第9回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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