東京地下道1949■第5回
(飛鳥京香・山田企画事務所・1978年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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東京地下道1949■第5回
米軍食糧貯蔵庫は、ゆうに100万人の人々の口を養うことができる。
トウキョウ市では餓死者が続出していた。
食糧はいくらでも高く売ることができるのだ。
食糧庫から、トウキョウ市内の米軍キヤンプヘ食糧が一日数回搬出されている。
竜たちベビーギャングは、そのトラックをねらっていた。
竜は、夜の闇にまぎれ、食糧庫に近づく。
サーチライトが、あたりを照らし、番犬が鉄条網内でとき放たれ、動き回まっている。
「竜、ひさしぶりだな」
背後から声がかかった。
「おっと、銃には手をかけるなよ。こちらは4人。皆、すでに銃を手にしている。ゆっくりこちらを向きな」
「ムサシか。ごこで、昔のしかえしを受けるわけか」
「そうしたいのは、ヤマヤマなんだが、どうやら、お前もあれをねらっているらしいな」
上背190mをこえる大男、ムサシば貯蔵庫の方を指さす。
ムサシはこのあたり一帯を、とりしきる浮浪児のグループ(ベビーギャング)の長だった。
その支配下の戦争孤児の数は300名をはるかに越えている。
かって、竜は、このムサシに手ひどい仕打ちをしたことかある。
「違うといっても隠しようがないな。そうだ。おれたちは、あの食糧庫の搬出トラックを狙ってているさ」
「実は、俺達も.その搬出トラックをねらっている」
ムサシは、竜をじっと見つめた。
「そこで相談だが、手を引け、といっても引きさがるか前じゃない。」
竜の手に汗がしみでている。
「手を組むか」ムサシは威嚇的に言う。
「わかった。俺達のグループ人数では手にあまる仕事だと思っていたところだ」
「そうとなりゃ、話が早い。この3人は俺の知りあいだ。俺のグループと、こいつら各々の手下。それにお前のグループと5つのグループで襲撃することにする。それじゃ、俺の アジトヘ来てくれるか。」
「わかった。しかし、ムサシ、変なまねだけはするなよ」
「お前にそれを言われると不思議な気がする ぜ。ところで鉄は元気か。」
「でていったよ」
「いつ」
「さっきさ。残念そうな顔つきだな」
ムサシは右手を竜の方へむけた。
右手のくすり指が、第三関節からなかった。
以前のいざこざの時、鉄のナイフが切り取ったのだ。
「鉄とは会いたかったな」
ムサシの目に残忍な光が宿る。
●
そのナイフの鉄は、その時、故買屋、進藤の店を訪れていた。
進藤の店テーブルの上には、例の地図が拡げられている。
進藤は静かにその地図をながめていた。
が、一瞬、驚きの表情があらわれたようだった。
それが突然不機嫌な表情にかわる。
その顔つきでテーブルの下に設置してあるスイプチを操作する。カシャカシャという音が上の方から聞こえてくる。
「だめだね、鉄。残念ながら、値打ちなんかない。高く買うわけにはいかないよ。もっと いい出物はないのかね。近頃はいい出物がなくて困っている。いいヤマに当らないのか。
竜はどうしている。今度はどんな仕事だね。いい仕事なら前金を渡してやってもいいよ」
「おっさんには関係のないことさ」鉄がいう。
(続く)20090501改定
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