クリス・リックマンという名の箱船第9回
(1976年)「もり」発表作品
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
何度も言うが、不思昌な事に、私の記憶にはメルダ慨という都市の記憶はない。
私はこの地球上に現存する都市の名前をすべていえる。
しかし、メルダ市の名前は、私の頭のリストには含まれていない。
つまり、「都市管理センター」から食料を受け取ってはいないのだ。
彼女はそれを知っているのか。
が、ともかく、私は私自身が生き残るため、メルダ慨に向かう事にした。
■運搬トラックは片側のタイヤが完全にいかれていた。
運搬トラックに標準装備されている砂上小型ホーバークラフトを私とイーダは組み立で始めた。
1私はイーダに尋ねてみた。
「君達の都市は何を作っているのかね」
「何も作ってはいないわ」
「そんな都市があるわけがない。それならばどんな方法で金を得ているのだ」
「私には理由はわかりません」
彼女は黙り込んでしまった。
私は途方にくれる。
私はしかたなく。
彼女を組み上ったホーバークラフトに價せぐ彼女の指さす方向へ造を進み始めた。
しはらくして、後から爆風と閃光が襲ってきて、最後に爆発音が響いてきた。食糧トラックの
自爆装毀をオンにしておいたのだ。
私は食糧トラックが完全に燃え尽きて消え去った事を調べてから、イーダに尋ねた。
「所で、イーダ、君の複合個体はいくつだね」
「私の体には一つの個性よ」
「君の都市の人達は皆、君と一緒なのか」
「そうよ、一つの体に一つの個性、それが私達の市の普通の人達よ」
■ちょうどその時、ホーバークラフトは潅木地帯に入っていた。
突然、一発の弾丸が私の方へ飛んできた。
私は瞬時に体をふせていた。
又は、新手のバウンティハンターの登場らしい。
二弾、三弾と次々に射ち出される弾は、今度は、ホーバークラフトのフレキシブルカ
ートを射ち貫いていた。速度がおとろえた。
「止まれ、止まれ、止まらなければ、その女に命中させるぞ」
荒々しい男の声が聞こえてきた。
大昔のスコープ付対戦車ライフルをかついだ
私と同じ年配の男が潅木の茂みから姿を表
わしていた。
「動くなよ。俺の指は、年のせいでょくふるえるんだ」
男はすばやい動きで走ってきて操縦席にライフルを突き込み、
私の頭をライフルの銃身でなぐった。「おい、お前、何者だ」
男は私の胸のシルバー・スターに気づいた。
「これはこれはシティ=ディザスターか。女連れか、いい御身分だな。
なぜそんないい暮しができるんだ」
私は男に逆に尋ねた。
「お前はどこの市の者だ」
「俺か、俺はどこの市にも属してはいない。放浪者さ。しかし、今日は狩人さ。まさか、
その得物がシティ=ディザスターとはな。おいお前出てこい」
彼は茂みの方へ叫んだ。
再び、後の茂みから、若い男があらわれた。
この男もボロボロの服を着ている。
「これがシティディザスター様だとよ。よく見ておけ、二度と拝めないぞ」
私はそれに対して、
「私は君の面を二度とは見たくない」
「何だと」老人はカッとなった。
「いけない。あやまれよ。お前、このじいさんはすぐ頭に来るんだ。あやまれ」
若い方が叫んだ。
私は黙って、私とよく似た顔をした老人の顔をにらんでいた。老人の怒りは急激に頂点
達したようだ。
「この野郎、死にやがれ」
対戦車ライフルの銃身を私の頭に当て、引き金を引きしぼった。
ボスッ。
すごい音脈響いた。
イーダは失神していた。
当然、私の頭がすいかか何かの
ように吹き飛び、血だらけの下半身が残っているに違いないと考えていただろう。
しかし私は無傷だった。
対に、対戦車ライフルをぶっばなした老人の姿が消えていた。
対戦車ライフルだけが地面にころがっていた。
残った若い男は、小型拳銃をとりだし、ふるえながら、私に向けた
が若い男は私の双眼を見つめた。
何か異常に気づいたようだ。男は悲鳴をあげ、銃をほおり投げ、茂の中に
走り込んで行った。
彼は直観で気付いたのかもしれない。
この地球上の総ての人々は私を殺す事はできないのだ。
なぜなら、私は彼らの父なのだ。
皆、同じ種類の顔なのだ。
(続く)
クリス・リックマンという名の箱船第9回
(1976年)「もり」発表作品
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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